真理子は立ち上がって美紀の布団を綺麗にかけ直してあげると、「ねぇ、ちょうど相葉くんもいるし見て欲しい物があるの。」
そう言って足元に置いた鞄から少し分厚い手帳みたいなものを出した。
相葉と二宮はお互い顔を見合わせて「何だろう」と入り口からベッドのそばに移動した。
「何ですか?」
高橋は分厚い手帳みたいなものを見て不思議そうに聞いた。
「これ、美紀の日記帳だよ。」
「日記帳?」
「そう。直樹くんに読んで欲しいの。美紀が事故にあったあの日。美紀は自分の思いをここに書いた。本当はね、直樹くんと行きたかったって。」
「本当に...?」
「うん。読んでみて...」
真理子は日記帳を高橋に渡した。
高橋は受け取っていいのか戸惑いながら少し震える手でそれを受け取った。
高橋は相葉を見た。
「これ、読んでもいいのかな?」
「うん...いいん...じゃない?」
高橋は相葉の言葉を聞くと日記帳を開いた。
その1ページ1ページには綺麗な字で美紀の心の中が書かれていた。
そこには、高橋が好きだと言う想いと相葉への心配。
日常感じている事。
普通の女の子の日記帳だ。
高橋は本当に読んでいいのか何度も真理子に聞いた。
真理子は「直樹くんに読んで欲しかったの。だから読んで欲しい。」そう言った。
高橋は、一つ一つページをめくってあの日美紀がコンサートへ行く日の日付けを見つけた。
『今日は、これから相葉くんのコンサートへ行ってくる。本当は直樹と行きたかった。せっかく相葉くんが作ってくれたチャンスだったのにな。残念。
何度誘っても嫌だって言うし。
私とじゃ嫌なのかな…。
最後にもう一度誘いに行ってみるけどやっぱりダメかな。
でも私は直樹が好き。これははっきり言える。直接伝えたかったな。高橋くんではなくて直樹、直樹って昔みたいに呼べたらいいのに。ずっと好きだった。でも、直樹は勘違いしてるみたい(笑)
今日のコンサートが終わったらやっぱり気持ちを伝えようかな。
直樹、今でも本当に大好き。いつか絶対気持ち伝えるからね。
じゃあ、行ってきます。
コンサートの相葉くんも楽しみだな。』
日記はここで終わっていた。
高橋は日記帳を閉じた。
「真理子さん、ありがとうございます。」と言って日記帳を返した。
「これ、直樹くんが持っててくれる?本当はずっと迷ってたの。日記を読んでもらうかどうか。でもね美紀の本当の気持ちを知って欲しいって思ったから。直樹くん、美紀の気持ちは自分にはないって昔言ったよね?だから、ちゃんと知っていて欲しかった。」
「真理子さん...」
「前に電話で、直樹くん美紀のこと諦めたくないって言ってくれてたよね?そうやってずっと美紀に寄り添ってくれて感謝してるの。」
「真理子さん...でも...」
「でもね、もう美紀から解放されてもいいんだよ?直樹くんだって、ずっと美紀に縛られてる。」
「真理子さん、俺そんなふうな思った事ないですよ。俺はずっと、これからもずっと美紀のそばにいたいんです。」
「美紀は幸せだね。こんなに想っててくれる人がいて。」
真理子は目頭を押さえた。
「真理子さん、でも俺...相葉に酷いことした...だから...」
それを聞いて黙っていた相葉が口を開いた。
「高橋、俺は何もされてないよ。何にもなかった。ねっ?」
「相葉、なんで?」
「もういいよ。分かったから。美紀のためだって分かったから。」
「まーくん?いいの?ダメでしょ?」
「カズくん、いいんだよ。」
相葉は二宮を見て少し笑った。
「まーくん...」
「俺たち邪魔みたいだからさ、戻ろう?」
「相葉...?でも俺...」
高橋は少し戸惑いながら相葉を見た。
「高橋、美紀のことお願いします。俺の分までね。」
相葉はニコリと笑って高橋の肩を叩いた。
「あ、痛っ!」
相葉は肩を叩いた振動が胸に響いて痛くて胸を押さえてその場に座り込んだ。
「まーくん、あばら折れてるんだから。」
二宮が小さな声でそう言って相葉のそばにかかんだ。
「大丈夫、ありがとうカズ。」
「うん。」
「じゃあ行こうか?」
相葉はそう言って立ち上がった。
ドアを出ようとする相葉に高橋が声を掛けた。
「相葉?」
「ん?」
相葉が振り向く。
「本当にごめん。そして本当にありがとう。」
そう言って深々頭を下げた。
相葉と二宮はみんなの待ってる場所へと向かった。
続く