高橋と二宮の間に流れた沈黙はドアのノックの音で遮られた。
看護師が入ってきた。
さっき叫び声をあげて出て行った若い看護師とは違う年配の看護師だった。
「失礼します。」
「はい。」
さっきの事を聞いていたのか少し緊張しているように見えた。
「高橋くん、今日の美紀ちゃんはどう?」
そう言いながら脈や体温を測る。
「はい。変わりなく眠ってます。」
「それなら良かった。」
そう言って少し微笑んだ。
そして、「美紀ちゃんが眠っている事は誰のせいでもない。分かってるよね?」
少し強い口調でそう言うと高橋の肩をガシッと掴んだ。
「はい。分かってます。でも...」
「真理子さんからは何も聞いてないの?」年配の看護師はさらに続けた。
「いえ...真理子さんはなんて?」
「聞いてないならいいの。いつか話すと思うから。真理子さんも迷ってたみたいだし。」
「気になるじゃないですか?」
「ごめん。聞いてるかと思ったから。」
「いえ...」
「でも、聞いてたらあんな事しないか。」
そう言って少し笑った。
「本当にすいません。」
高橋は深々と頭を下げた。
「美紀ちゃん、眠っているけどちゃんと聞いてるからね。ダメよ、もうあんな事したら。ねっ?」
「はい。」
看護師は体温や脈を測りカルテに記録して病室を出て行った。
「毎日ここへ来てるの?」
「毎日でもないけど...来れる時はね。」
「そっか。」
「美紀ちゃんって言うんだね。」
「うん。綺麗だろ?美紀は本当に美人なんだ。相葉にはもったいないくらい。」
「相葉くんに?二人は好き同士だったの?」
「いや...分からない(笑)」
高橋は首を振った。
「あのさ。どうして相葉くんを?」
二宮は高橋がまた怒り出さないように慎重に聞いた。
高橋は黙っていた。
「答えたくないなら別にいいよ。」
「いや...相葉はもしかして...」
「なに?」
二宮は高橋を見た。
「俺のせいで...その...」
二宮はさっきまで怖かった高橋にもこんな優しい一面があるんだと思った。
美紀と言う女性の話しをした時とても優しい表情をした。
いや、本当の高橋の姿はこっちなのかもしれない。
ナイフを持っていた高橋は自分を守るためなのか美紀と言う女性を守るためなのか、この女性がこうなった事を相葉くんのせいにするためか...
そうやって攻撃して自分の辛さから逃げたかったのか。
それとも本当に...
まーくんのせいでこうなったのか。
あの日何があったのか知りたいと高橋は言っていた。
まーくんが目を覚ましたら分かるんだろうか?
それとも...
この美紀と言う女性が目を覚まさない限り何も分からないのか。
ここに残ると言ったけれど、やっぱりまーくんが心配だ。
早く戻りたい。
二宮はそう思った。
続く