10『優しさ』
大野は、楽屋を出ると真っ直ぐ歩いた。突き当たりまで来ると階段があり、その階段を登って踊り場まで出た。
二「痛いよっ、何なの?」
ようやく、大野は二宮の手を離した。
大「ここなら、あんまり人も来ないしな…ニノ、帽子取って。」
大野は、そう言うと二宮の帽子に手をかけた。
二「何だよっ、さっきから何なのっ?」
二宮は帽子にかけた大野の手を振り払った。
振り払うと同時に帽子もパラっと落ちた。
大「やっぱり…」
大野は二宮の顔を見て、そう言うとズボンのポケットから何か小さい容器を出した。
そしてそれを二宮に向かって投げた。
大「ほらっ。」
二「えっ?目薬?」二宮はそれを受け取るとマジマジと見た。
大「とりあえず、充血は取れるから。まぁ、どうしてそんなに目が充血するほど泣いたかは聞かないけどさ…。」
二「…リーダー…ごめん。」
大「なんで、俺に謝るの?違うでしょ。」
二「…」
大「落ち着いたら戻って来な。」
そう言って階段を降りようとした。
その時、二宮がポツリと話し出した。
二「知ってる…よね?」
大野は、階段を降りようとした足を止めた。
二「ユウコの事。俺、わかんなくてさ…」
大野は、階段を降りようとしたそのままの体勢で手すりに手をかけた。二宮に背中を向けたままじっと聞いていた。
二宮も大野の背中に向かって話す。
二「あいつの事好きなんだ。だけど…うまく好きって言えなくて。このままじゃいけないって…曖昧な関係のままじゃダメだなって、想いを伝えたいのに言えなくて、小さい頃の自分は素直に『好き』って言えたのに…。あいつさ、もう会うのやめようって言うんだよ…なんで…なんでなんだよ…こんなに想ってるのに…」
二宮は、そこまで言うと辛くなってしゃがみ込んだ。
涙がどうしても止まらない。
大野は、振り返り二宮に近づいた。
大「泣くなよ。」そう言って二宮の横にしゃがんで背中をさすった。
二「ごめん…」
二宮は、頬に伝う涙を拭った。
大野は黙って背中をさすりながら隣に座り込んだ。
相「リーダー?」
しばらくすると、相葉が大野を探してやって来た。
相「ここにいたんだ?もうすぐ収録始まるってよ。」
大「うん。」
大野は二宮を見てから、「収録開始が延ばせないか聞いてくるから、相葉ちゃん、ニノについてて。」そう言って階段を降りて行った。
相葉は、階段を上り二宮の隣にしゃがんだ。
相「ニーノちゃんっ。」と二宮の顔を覗き込む。
二「その呼び方やめろって。」と言ってちょっと笑った。
相「いいじゃん。俺とニノの仲なんだから。」
二「どんな仲だよっ」
相「今、笑った。ねっ?」
と相葉は嬉しそうに二宮の顔を覗き込む。
二「なんだよ…」
二宮は涙を拭って、ちょっとはにかんだ。
相「ユウコちゃんだっけ?」
二「えっ?」
相「ごめん、ちょっと聞こえちゃって…」
二「うん。」
相「確か、女優さんだよね。俺、一度だけテレビ局で会った事あるよ。」
二「そうなんだ?」
相「すごく綺麗で儚い感じがした。可憐な感じ?」
二「そう?」
相「ニノにはもったいない感じ。あんな美人さん。」
ニ「なんだよっ、それ。」
相「本当もったいないっ。あんな美人で清楚な感じ。」
二「うるさいよっ!」
二宮はちょっと笑った。
相「やっと、笑顔が出てきたねニノ。大丈夫だからさ。ちゃんと彼女と話しなよ。何かあったらニノの涙は俺が受け止める。」
二「もぅ、バカじゃないの、なんだよさっきから…」
二宮はまた涙を流した。
相「あれ?俺変な事言った?」
二「さっきからずっと変な事言ってるよ、バカ…」
二宮は笑いながら泣いていた。
大野は、収録開始が延びた事を伝えに来たが二人の様子を見て「もう、大丈夫だな。」とつぶやくと楽屋へ戻って行った。
続く