8『涙』
カズは自分の部屋に戻った。
久しぶりの自分の部屋。
ここ最近はユウコのところに行っていたために自分の部屋は、本当に久しぶりだった。
部屋に入るとシーンとしていてなんだか寒く感じた。
カズは、仕事までまだ時間があるので、寝室に行きベッドに横になった。
しばらく使っていなかったベッド。
少し冷たくヒヤッとした。
カズは、ベッド脇にあるチェストに目をやった。
一番上の小さな引き出し。
カズは起き上がると何となくその引き出しを開けた。
写真が入っている。
カズは写真を手に取ると、それをジッと見た。
幼い女の子と男の子が写っている。
それは、小さな頃のユウコとカズだった。
カズより少し背の高いユウコは、髪を二つに分け耳の少し上で結んでいた。
可愛いな…
カズは、幼い頃のユウコを見て思い出していた。
そう言えば、俺、
言ったかもしれないな…
『ユウコちゃんのこと、すきだよ。』
幼いカズがユウコに向かって言っている姿がカズの頭に浮かんだ。
幼い頃にユウコに、『ケッコンしよう。』と何度も言っていた、と言う話は母親から聞かされていた。
だけどほとんど、記憶がない。
まだ、小さい頃の事。覚えていなくて当然だった。
俺…ユウコの事こんなに好きだったんだな。
こんなに小さい頃から…
ずっと…。
こんなにも想っているのに。
気持ちを伝えたい。
ユウコ…。
カズは、ベッドの脇に座り背中を丸めた。
うまく気持ちを整理出来ない。
頬を涙だけが伝う。
なんで?どうして?
『もう、会うのはやめよう』なんて言うんだよ。
カズは、持っている写真をギュッと握りしめていた。写真はしわくちゃになった。
今まで我慢していたものが、一気に出てきたようにカズは泣いた。
ベッドの脇に座ったままカズは写真を握りしめ泣いていた。
自分の感情に押し潰されそうになる感覚。
どうしようもない。
仕事に行かなければいけない時間だ。
カズは、ふらふらとしながら洗面所で顔を洗った。
鏡を見ると自分ではない自分が映っている気がした。
こんな顔で収録に出れるかな。
鏡の前で笑ってみる。
うまく笑えない。どうしても涙が頬を伝って落ちる。
何やってんだろ…
バカだな。
続く