俺はやっぱり金曜日は都合が悪くなったと言わなければと思った。
すでに金曜日は明日だった。
デスクに向かってパソコンを打ってはいるが頭の中は彼女の事でいっぱいだった。
チラッと彼女のデスクの方に目をやると彼女と目が合った。
ニコッと彼女が笑う。
それだけで俺も笑顔になる。
でも、どうしよう。
約束の事。
少し悩んだがきちんと彼女に話そうと思った。
お昼休み、彼女がランチへと向かうところを追いかけた。
「あの。」
話しかけるとすぐに振り返った。
「あ櫻井くん。どうしたの?」
「あの、ちょっと・・・」
「ん?」
彼女は友達に先に行っててと言って友達を先にランチに行かせた。
「なに?櫻井くん。」彼女が改めて俺の方へと来た。
「あの、金曜日なんですけど・・・」
「あ、うん。場所決めた?」
彼女が思いのほかキラキラした目で俺を見てくるもんだからドキドキしてしまった。
それでも言わなければと思い呼吸を整えた。
「それが・・・その日は商談が入っちゃって。大事なお客様で。その・・・」
俺がなんだか言いにくそうにしていると彼女がニコッと笑った。
「ふふ、そんな事だろうと思った。最初に約束した日、スケジュール帳睨んでたからね。すぐに分かったよ。」
彼女はそう言ってニッと笑って俺の頬をつねった。
「痛っ!」
「う・そ・つ・き」彼女は俺の顔をじっと見てそう言った。
「あ、ごめんなさいって言うか・・・その・・・あの。」
俺がオロオロしていると彼女は「ふふ」と笑って「もう、櫻井くん?しっかりして」
「あ、はい。」
「冗談だよ。分かってる。櫻井くん忙しいもの。ご飯はいつでもいいよ。」
「本当に?」
「うん。いつでも。」
「じゃあ、いつか一緒に。」
俺は自分でも笑ってしまうほどの笑顔を彼女に見せていた。
「櫻井くん、そうやって笑ってる方がいいよ。」
「えっ?」
「いつも、眉間にシワ寄せて仕事してるから(笑)」
彼女はそう言うと俺の眉間に人差し指をギュッと押し付けた。
「ここ、いつもシワが寄ってる。」
「痛っ!」
俺は思わず彼女の人差し指を握って眉間からどけた。
俺は彼女の指を握ったまま彼女の顔を見つめた。
二人はしばらく見つめ合っていた。
「あの、櫻井くん?」
彼女の声に我に返って慌てて彼女の指を離した。
「あ、ごめん。」
「ううん。」
彼女は少しはにかんだ。
「じゃあ、私行くね。友達が待ってるから。」
「あ、そうでしたね。すいません呼び止めちゃって。」
「ううん。またね。ご飯楽しみにしてるから。」
彼女は、俺に背を向けると急ぎ足で外へと出て行った。
結局約束は延期になってしまった。
さっき、握った彼女の指の感触がまだ残っていた。
柔らかくて少し冷たい手だった。
前に手が冷えると言っていたことを思い出した。
さっき彼女が触れた眉間に自分で触ってみた。
そんなにシワが寄ってたかな。
仕事中、つい怖い顔をしていたかもしれない。
もう少し笑顔も作らないとな。
俺は彼女の指の感触を思い出しながら自分のデスクへと戻り椅子に座った。
腕時計を見て腕を組んだ。
そのまま椅子の背もたれにグッと寄りかかり天井を見上げた。
いつか、彼女と食事に行けるのかな。
そして。。
俺のものに・・・?
いつかきっと。
片想いのその先に。
きっといつか。
この腕に・・・。