どうしよう。
よく考えたら彼女の連絡先とか知らないんだった。
約束だけして結局実現はしていない。
やっぱり片想いってこんなもんだよな。
俺は今日もパソコンに向かって仕事をしながら彼女のデスクの方にも目をやる。
彼女は隣の男と楽しそうにお喋りしていた。
俺は胸がギュッと締め付けられた。
あの時の彼女の香りがまだ俺の中に残っている。
彼女のデスクの方を見ていると目が合った。
彼女がニコッと笑う。
俺も自然と笑顔になった。
すると彼女が席から立ち上がって俺の方へと歩いて来た。
えっ?
何?
俺はドキッとした。
彼女は俺のデスクの前に来るとデスクに手を付いて俺の顔を覗き込んだ。
彼女の髪からふわっといい香りがした。
「ねぇ。櫻井くん。」
「な、何?」
俺はたぶんドキドキして少し引きつった顔をしていたかもしれない。
「この間の約束。覚えてる?」
「あ、はい。約束覚えてます。」
「ちょっと、そんなに硬くならないでよ(笑)」
「あ、ごめん。なんか急だったし。」
「ふふ、私、あれから楽しみにしてたんだ。櫻井くんとご飯行くの。」
「えっ?マジで?!」
俺は思わず大きな声を出してしまった。
「ちょっと、声大きい(笑)」
「あ。ごめん。」
俺は少し小さな声で彼女に言った。
それから思い切って「あの、連絡先分かんなくて・・・」と、言ってみた。
彼女は、一瞬「ん?」と言う顔をして「あ、そうだよね。」と笑顔になった。
「櫻井くんからの連絡待ってても来ないわけだよね(笑)」
「あはは、そうですよ。連絡先も分かんないしどうやって連絡したらいいかって考えてたんですよ。」
「んー、でも会社で会うんだし言ってくれたら良かったのに。」
「まぁ、そうなんですけど。」
「そうなんですけど?」
「仕事中はやっぱりちょっと・・・」
「そうだよね。じゃあ、金曜日はどう?」
「あー、金曜日?」
俺は持っていたスケジュール帳を見て予定を見た。
「何か予定あった?」
「いや。」
「予定があるなら無理しなくていいよ。」
「いや、大丈夫です。」
「じゃあ、金曜日で決まり。場所は櫻井くん決めておいてね。」彼女はニコッと笑ってその場を立ち去って行った。
俺はスケジュール帳を、もう一度見た。
予定が入っていた。
どうしようか。
こっちは断るか。
いや・・・ダメだ。
彼女との約束を果たしたいがために俺は嘘をついた。
金曜日は、大事な商談が入っていた。
何やってんだ、俺。
俺は目の前のパソコンを眺めていた。
でも、商談は18時からだ。
少し遅めの20時からにしたら大丈夫かもしれない。
商談は2時間で終わらせる。
いや、食事を兼ねての商談だ。
無理に決まっていた。
曖昧な約束をしてしまった自分に苛立った。
何やってんだ、本当に。
やっぱり彼女には断ろう。
そう思って彼女のデスクに目をやると彼女はいなかった。
オフィスを出て行くのが見えて俺は追いかけてオフィスを出た。
「あのっ!」彼女を呼び止める。
「えっ?」
振り返る彼女は本当に綺麗だった。
「あの、金曜日。」
「うん。楽しみにしてるね。」
俺は言い出せずに「はい。」とだけ言って頷いた。
「それを言いにわざわざ来たの?」
「いや、ちょっと。俺も下に用があって」
「そっか。私は上に行くから。またね。」
そう言って彼女は真っ直ぐ歩いて行ってしまった。
あぁーもぅ。
何やってんだよ。
自分の不甲斐なさに頭を抱えた。
どうするんだ、俺。。
その場にヘタっとしゃがみ込んだ。
金曜日。
商談が延期になればいいのに。
曖昧な約束をしてしまった。
あーもぅ!
恋愛には本当に疎い。
片想いのその先に。
彼女との未来はあるのかな。