「未来はあるのかな」1
俺は今日も俺のベッドの上に座る君と会話をしていた。
「これから大野さん呼ぼうかな。」
「えっ?カズ、ダメだよー!」
「今日も化粧してないし変な格好だからでしょ。」
「もぅ、分かってるなら呼ばないで!」
「だって好きなんでしょ?」
「でも。。」
「会いたいんでしょ?」
俺はジリジリと君に歩み寄る。
「カズって意地悪。」
君が俺の顔をジッと見てそう言った。
そのちょっとむくれた表情が可愛くて俺はドキドキとしてしまった。
彼女はむくれたままスマホをいじっていた。
俺は何となくそれを見ながらテーブルに頬杖をついた。
狭いアパートの部屋の隅にある俺のベッド。
その前に置いてある小さなテーブル。
殺風景な部屋なのに君がいるだけで明るくなった感じがする。
「ねぇ、カズ。」
「何?」
「お腹空いた。」
「は?」
それは俺に作れって事か?
ご飯奢れって事か?
試しに言ってみた。
「じゃあ、ご飯自分で作ればどうですか?」
「えー?面倒臭い。」
彼女はベッドの上にゴロンとなった。
だからそれ俺のベッド。。
「あー、はいはい。作れって事ね。」
俺は立ち上がって冷蔵庫を開ける。
あー、何もないなー。
男の一人暮らし。
冷蔵庫にいつも食材があるわけじゃない。
「あのさ、なにもないし何か買ってこようか?」
そんな事を言いながら俺は彼女の言いなりになっている事に気付く。
「うん。でも、いいよ。なんか悪いし。」
彼女はベッドから降りると俺の近くへと歩いて来た。
「どこ行くの?」
「帰るね。」
「えっ?」
ワンルームのアパート。
キッチンを抜けるとすぐに玄関だ。
「帰るよ。ごめんね。カズ。」
そう言って彼女は玄関で靴を履く。
俺はちょっとだけ寂しくなって君の腕を掴んだ。
「待ってよ。大野さん呼ぼう。」
「えっ?でも、やだよ。今日は本当に会いたくないの。」
「なんで?」
「だって。」君がうつむいた。
「何?」俺は何だかよく分からなくて彼女の顔を覗き込んだ。
「だってほら?」
「えっ?何?わかんないよ。」
俺は君の腕を掴んだままだった。
このまま彼女を引き寄せれば抱きしめられる。
そんな事を思いながら気持ちをセーブするのが大変だった。
「だから。これ。」
「えっ?」
俺は君が大野さんに会いたくない理由を見つけて笑ってしまった。
「ふふ、そんな事?」
「もう、カズは何も分かってない!」
彼女は怒って俺の手を振り払って玄関から出て行ってしまった。
残された俺はまた部屋へと戻って君が座っていたベッドの布団を綺麗に直した。
君が大野さんに会いたくなかった理由。
鼻の下のニキビ。
確かにイヤか・・・。
ごめん。
これは君にとってデリケートな問題だったんだ。
それを笑ってしまった。
あとで謝ろう。
そう思っているとインターフォンが鳴った。
出ると大野さんだった。
なんというタイミング。。
部屋へ通すと大野さんはさっきまで君が座っていたベッドへと座った。
「あ、そこ。」
「えっ?何?」大野さんがびっくりして俺を見た。
「あ、いや・・・何でもない。」
同じ場所に座るんだな。
きっと二人は気が合うよ。
片想いのその先に。
未来はあるのかな。
好きだと言う気持ちだけが一人歩きしてる。
俺にとっての幸せは君が幸せになる事。
だから、いいんだ。
今日も君の香りの残るベッドでゆっくりと眠りにつく。