「カズ~。」
「何?」
「私、やっぱり大野くんが好きみたい。」
「ふふ、俺に言ってもさ。」
俺のベッド上に座り込んで頭から布団を被ったまま俺を見た。
彼女は友達。
時々こうやって遊びに来ては俺を困らせる。
狭いアパートの一室で部屋に置いてあるベッドの上に必ず座る。
そこさ、俺がいつも寝てる場所。
彼女は気にすることなくそこに座る。
そして、よりにも寄って大野さんが好きだと言う。
俺は彼女の事が好きなのにな。
最初から君が大野さんを好きなのは分かっていた。
それでも、俺は君を好きになった。
「ねぇ、大野さん呼ぶ?一緒にご飯でも食べます?」
「えっ?ダメダメ!」
「なんで好きなんでしょ?」
「やだ、ムリ。今日は化粧もそんなにしてないしこんな格好だし。」彼女は被っていた布団を取るとベッドの上に立ち上がった。
「変でしょ?この服?」
ベッドの上から俺を見て着ていた服を引っ張る。
「どこが?おかしくないでしょ?」
そう、君がどんな格好だろうが可愛い。化粧だって。
してなくたって肌が綺麗な君だもの。
「えー、でも。」
「あのさ、俺の前ではその格好と化粧そんなにしてなくても平気なわけ?」
「えっ?当たり前だよ。」
彼女は何が?と言う顔をして俺を見た。
あー、はいはい。
やっぱり男しては見られてないってことだ。
「やっぱさ、大野さん呼ぼう。」
俺が携帯を出して電話を掛けようとすると君がそれを奪い取ろうとベッドから降りてきた。
「ちょっと。本当にダメだって!」
君が俺の携帯を奪い取ろうとして俺が転んで彼女が俺の上に乗った。
「痛いって!」
「あ、ごめん。」
彼女はすぐに俺から降りてまたベッドへと戻った。
だから、どうして俺のベッドに・・・。
そしてさっきの出来事にドキドキして俺は何だか落ち着かなくなった。
彼女の香りが俺を包んだ。
「あのさ、やっぱり大野さん呼ぼう。そうだ、そうしよう。」
「ちょっとカズ?どうしたの?」
「いや、別に。」そう言って俺は電話をして大野さんを呼び出した。
「本当に呼んだの?」
「呼んだ。すぐ来るって。」俺はまだドキドキしていた。
「あのさ、その。」
「何?」
「ベッドからは降りない?そこ、俺の寝る場所・・・」
「あ、そっか、ごめん。大野くんが来たら誤解されちゃうね。」
いや、そうじゃないんだけど。
まぁ、いいか。
彼女がベッドから降りて今度は狭い部屋に置いてあるテーブルの前に座った。
俺の目の前にいる。それはそれで落ち着かない。
「あー、なんか飲む?」
俺が冷蔵庫へ行こうとするとインターフォンが鳴った。
すぐに玄関へ行きドアを開けると大野さんが立っていた。
「急に呼び出して何?」
「まぁ、入って。」
大野さんが来ると彼女は途端にいつもと違う声を出した。
「大野くん。」
「あ、いたんだ。」
「うん。一緒にご飯でも食べようってなって。」
「いいね!どこ行く?」
俺は、彼女と大野さんが仲良く会話しているのを見ていた。
君が嬉しそうにしてるのを見ると何だか俺も幸せな気がした。
結局近所の飲み屋さんに行くことになって三人でアパートを出て歩いた。
君は大野さんの横にピッタリと寄り添うにして歩く。
その後ろを俺は歩いた。
君の長い髪が揺れている。
時々振り返り俺を見る顔が嬉しそうだった。
好きな人の隣だもんな。そりゃ嬉しいよな。
大野さんも彼女の事が好きに違いない。
話す時のテンションで分かる。
やっぱり片想いは辛い。
俺は彼女の香りが残るベッドで眠りにつく。
幸せな香りなのにやっぱり辛い。
大野さんと君が楽しそうにしていたのが思い出された。
でもね、いいんですよ。
好きと伝えない。
時々する君との恋話。
そんな距離感。
君が幸せなら・・・。
俺も幸せって思えるから。
おやすみ。
俺は夢で君と。。