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タケルは「今までありがとうございました。」と頭を下げた。
店長が「お疲れ様。」とタケルの方を見て拍手した。
今日で本屋のバイトも最後になった。
朝の朝礼でみんなに挨拶をして仕事に入った。
あっという間に夕方になり仕事も終わった。
「タケルくん、あれからえりさんとはどうなの?」
仕事が終わって事務所に戻ろうとするタケルに声を掛けた。
「えりは相変わらずですよ。俺にまとわりついて離れないです。」そう言いながらタケルは笑った。
「そっか。妹って違うよね?」あけみは何となく聞いてみた。
「まぁ、一緒に暮らしてた時期が長いんで妹みたいなもんだけど・・・(笑)本当は違います。えりは両親に捨てられたようなもんですよ。うちの両親がそれを拾った。一緒に暮らして来たんです。」
「じゃあ、これからまた家に戻って家族で暮らすんだね。」
「はい。ここも辞めてもっと近くで仕事見つけて。えりとも仲良くやっていきます。アイツ何するか分かんないんで。」
そう言うタケルの顔は穏やかだった。
「そっか。えりさん、大事にしてあげてね。」
「はい。」タケルは大きく頷いた。
あけみも仕事が終わり帰る支度をした。
店から出るとえりが待っていた。
「えりさん!」
「あ、あけみさん。」えりは少し驚いたが同じ職場だった事にすぐに気付き笑顔であけみを見た。
「タケルくん?待ってるの?」
「はい。」
「すぐに出てくると思う。今日で最後だからみんなにもう一度挨拶に回ってから帰るみたいだよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
えりは深々と頭を下げた。
「えりさん、タケルくんと仲良くね。」
えりは頭を上げてあけみを見た。
「なんか、本当にすいません。私はタケルには妹だって思われてて。それはもうずっと変わらないと思います。」えりは少し寂しそうだったがすっきりした顔をしていた。
「そっか。でもまた、一緒に暮らせるでしょ?」
「はい。妹でもいいんです。一緒に暮らせるなら」
えりは小さく微笑んだ。
あけみもえりを見て小さく微笑んだ。
ちょうどそこへ店から出てきたタケルが来た。
「えり。」
「あ、タケル。」
「また、あけみさんに何してるんだ?」
タケルが少し怖い顔になった。
「何もしてないよ。」
「そう、話してただけだよ、タケルくん。怖い顔しないで。」
「そっか。ごめん。」
「タケルくん、あのアパートいつ引っ越すの?」
「週末には出て行きます。」
「そう。じゃあ私と同じだ。私もあのアパート出るの。」
「じゃあ、彼氏さんと?」
「うん。やり直し。」あけみはタケルに笑顔を見せた。
そして、空を見上げて大きく伸びをした。
見上げた空には星が出始めていた。
季節はすっかり変わり秋の気配がした。