12
「ちょっと潤っ!!」
あけみは玄関まで潤を追いかけた。
「待ってっ!」
あけみの声だけが玄関に響いた。
潤はそのまま行ってしまった。
どうしよう。
もう、なんでこうなっちゃうかな。
潤はその日そのまま帰って来なかった。
朝になってもベッドに潤はいない。
何だかあけみは寂しい気持ちに襲われてため息をついた。
なんで、こうなっちゃうんだろ。。
ごめんね。潤。
そう呟いて仕方なく起きてキッチンへ行き二人分の朝食を作った。
あ、そうか今日は潤はいないのか。
いつものクセで二人分作ってしまった。
潤の分はラップをかけて冷蔵庫へしまった。
仕事へ行く支度をして玄関を出た。
まだ初夏だと言うのに外は真夏の陽射しだった。
電車に乗るとあけみはスマホを鞄から出して潤にメールをした。
『昨日はごめんね。潤が一番嫌がる事をした。嘘を言ってごめんなさい。でも。。』
そこまで打つと誰かに腕を掴まれた。
「えっ?」
「あけみさん、おはよう。」とニコッと笑ったタケルがいた。
「朝からメールですか?」
そう言いながら私の隣に座る。
「あー。うん。」
「なんか、元気ないですね。あけみさん彼氏さんとケンカでもしました?」
「・・・」
ズバリと言い当てるタケルにドキッとした。
「まさか当たり?」
「うん。ちょっとね。。」
「そっか。なんで?昨日あんなに楽しそうに彼氏さんの話ししてたのに。」
まさか喧嘩の原因がタケルくんだなんて言えない。
そんな事言っても彼に罪はないんだし。
黙っている私の顔をタケルくんは覗き込んだ。
「あけみさん?」
「何?」
「泣かないで下さいよ。ここで泣いたりしたら俺が泣かしたみたいじゃないですか。」
「はは、大丈夫だよ(笑)」
私は一瞬泣きそうになっていたのにタケルくんの一言で泣かずに済んだ。
もしかして、私が泣かないように元気づけるためにわざと言ったのかな。
「タケルくん、ありがとね。」
「お礼なんて言ってもらうようなことしてませんよ?」そう言ってニコっと微笑む。
タケルの笑顔がこの時の私には救いだった。
喧嘩の原因がタケルくんだって事をすっかり忘れていた。
手に持ったスマホには潤への書きかけのメールがまだそのままだった。