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昨日の出来事に何だかまだフワフワしていたのか家に帰ってからも朝になってもボーッとしていた。
あんな風に人の前で堂々と告白された事なんて今までになかった。
「あけみ?」
返事をしないあけみに潤は目の前で手を振ってあけみの顔を覗き込んだ。
「あけみ?おい?」
「えっ?あ、ごめん。」
「どうした?」
「いや、別に。」
「どうした?別にって顔じゃないけど?」
「なんでもないよ。ちょっと仕事でね。ミスしちゃって。なんか考え込んじゃった。」
「そっか。大丈夫?」
「うん。大丈夫(笑)」あけみはニコッと笑って見せた。
「それなら良かった。」
潤もそれに答えるように微笑んだ。
仕事に行く支度をしてから今日は珍しく潤より早く家を出た。
「行ってきます。」玄関で潤に手を振ると潤に軽く腕を掴まれて潤の胸に引き寄せられた。
「あけみ?」
「何?」
潤は何も言わずにそのまましばらくあけみを抱きしめていた。
「行ってらっしゃい。」
「うん。行ってきます。」
軽くキスをするとあけみは玄関を出た。
今日の潤はいつもと違う気がした。
私が告白されたって何だかわかってるみたいな気がした。
勘が鋭い潤だから私のちょっとした変化にも気付くよね。
あけみは何となく職場に行くのが憂鬱だった。
昨日の今日だし。
どんな顔して会えばいいのか。
電車に揺られながらあけみはため息をついた。
職場に着くと今日はタケルくんは来ていなかった。
あけみはちょっとホッとした。
「あけみちゃん、昨日は大丈夫だった?」
店長が話しかけてきた。
「あ、はい。店長こそ。タケルくん大丈夫だったんですか?」
「うん。まぁね。大変だったんだけどね。」そう言ってちょっと笑った。
「そうなんですか?」
「うん。あけみさん、あけみさんってさ。かなり気に入られてるよ。あけみちゃん。気を付けなよ。」
「えっ?!」
「今の若い子はさ、本気になると何するかわからないじゃない?」
「あぁ、でもタケルくん真面目だし仕事もちゃんとこなすし。大丈夫ですよ。あぁ見えてしっかりしてるし。」私は笑顔で店長に答えた。
「まぁ、そうか。タケルは大丈夫だな。」
店長も笑顔を見せた。
その日は結局タケルくんはお休みだった。
次の日もその次の日もタケルくんは仕事を休んだ。
三日間休んだタケルくんは四日目にいつも通り出勤して来た。
「おはようございます。」
「おっ、タケル。来たな。体調はもういいのか?」店長が聞いた。
体調不良と言う理由でタケルは休んでいたようだった。
「大丈夫です。」
「そうか。良かった。」
私は何事もなかったようにタケルくんと接した。
「おはよう。タケルくん。今日からまたよろしくね。」
「あ、はい。」
いつも通り私はタケルくんと淡々と仕事をした。
何時間か経ってタケルがあけみを呼んだら。
「あけみさん、ちょっと。」
「ん?何?」
私はタケルくんの方へ寄って行くと「あの、これ。」と言って小さく折畳んだ紙を渡された。
「何?」
見ると携帯番号とアドレスが書いてあった。
「まだ、連絡先交換してなかったし。」少し照れたように私を見た。
「あぁ、そうだね。ありがとう。」私はその紙をエプロンのポケットにしまった。
「良かったー。」
「えっ?」
「なんか俺この前かなり酔ってたみたいで。失礼な事を・・・。」
「あー、あれ?もしかして覚えてない?とか?」
「いや、覚えてます!すいません。なんか・・・」
「そっか、覚えてたか(笑)でもいいよ。気にしないで。」
「怒ってるかと思って。あんな所で告白とか。」
「そんな。。大丈夫だよ。恥ずかしかったけど気持ちは嬉しかったよ。」
私はタケルくんに微笑んだ。
タケルくんも私を見てニコッと笑った。
それからタケルくんも私に告白した事なんて忘れてしまったかのようにいつも通りだった。