19
俺は、待ち合わせのファミレスへと向かった。
店に入ると、席を案内され店の一番奥の窓際の席についた。
コーヒーを頼むと、窓の外を見た。
ゆいこはまだ来ていない。
しばらく待っていたがまだ、ゆいこは来ない。
時計を見ると、約束の時間よりだいぶ過ぎていた。
遅いな。
と思った時、窓からゆいこが走ってくるのが見えた。
ゆいこは、窓際の俺を見つけると両手を顔の前に合わせ謝った。
しばらくすると、ゆいこが俺の席までやって来た。
「ごめんね。」
「いいよ、大丈夫。」
「で、話しって、何?」
「うん、あかりなんだけど、来たよね?」
「あっ、そうだよ!!」
ゆいこは何かを思い出したように大きな声を出した。
「えっ?何?」
翔は驚いて聞いた。
「あかりね、翔くんに会いに帰ったんだよ。」
「えっ?」
「それも、昨日の夜行バスに乗ったの。」
「マジか!?」
「入れ違いって、やつだね。」
ゆいこは、淡々として話す。
「あかりね、迷ってた。本当に翔くんの所に行っていいか。」
「そうか。」
「大丈夫。私が行けって言ったの。」
俺は目の前にあるコーヒーを一口飲んだ。
コーヒーカップに視線を落としたまま、ゆいこに問いかけた。
「あかりは、誰が好きだって言ってた?」
そう言い終わると同時にゆいこに視線を向けた。
ゆいこは、その視線に驚いたのか、一瞬俺から視線を逸らした。
「あかりは、翔くんが好きだよ。」
そう言い終わるとゆいこは、ふふっと笑った。
「なんか、おかしかった?」
「ううん、ストレートに聞いてくるな、と思って。」
「あはは、なんて聞けばいいか分からなくて。」
俺は恥ずかしくなってゆいこから視線を外し窓の外を見た。
「あかりね、私に話してる時、翔くんの事本当に好きなんだなって思ったよ。」
「えっ」俺はゆいこの顔を見た。
「だけどね、同時に潤くんの事もすごく大事に思ってるって感じた。」
「だよな。あいつ優しいんだ。誰も傷つけたくないって考えるやつ。」
「うん。だから、私が背中を押した。翔くんの所に行けって言ったの。」
「そっか。だけど、入れ違いじゃなぁ。なんか、バカみたいだよな。俺。」
「そんな事ない。ちゃんとあかりの所に行ってあげて。間に合うよ。」
「あかり。本当に俺の事好きなのかな?なんか自信ないなぁ。」
俺はまた、窓の外を見た。
いつも、あかりが見ていた町。
この町であかりは育った。
そう思うとここに自分がいるのが不思議な気がした。
もっと早く、あかりに思いを伝えていれば。
こんな風にはならなかったんじゃないか。
まだ、潤くんとあかりが出会う前に自分の思いに気づいていたら。
もう少し違う未来があったはず。
翔は、コーヒーカップに入ったコーヒーを見つめていた。
コーヒーにかすかに映る自分の影が小さく揺れた。
「翔くん?大丈夫?」
ゆいこの問い掛けにハッと我に返った。
「ごめん、大丈夫。」
俺はゆいこを見た。
「翔くんはさ、いつから好きだったの?あかりはもうずっとだよ…ずっと。あの子ね、一度告白したって。だけど、全然相手にしてもらえなかった、って言ってた。」
ゆいこは、目の前にある、紅茶を一口飲んで、翔を真っ直ぐに見た。
「告白?俺、そんな記憶ないけど…?」
俺は腕組みをして思い出そうとした。
「やっぱりね。あかりも言ってた。翔くん、告白されたって意識もないんじゃないかって。」
そう言ってゆいこは、ふふっと笑った。
「ごめん、なんか俺・・・」
「私に謝っても意味ないでしょ。翔くん、バスの時間は?早く戻った方がいい。あの子、翔くんが好きだけど、翔くんに会いに帰ったけど、もしかしたらまた、潤くんの所に戻るかもしれない。」
ゆいこは、それだけ言うと早く行くようにと俺を促した。
高速バスの時間も近付いていたし、ゆいこに別れを告げると俺はバス亭まで急いだ。
続く