10
私は今来た道を引き返した。
とにかく早く早く、気持ちが焦って仕方なかった。
智くんに会いたい。。
会いたくて仕方ない。
バカだな、私。なんでもっと素直になれなかったんだろう。
走って走ってようやくマンションの前まで来た。
深呼吸をして息を整えた。
インターフォンを入口の前で鳴らすと智くんの声がした。
『ごめん、智くん。忘れ物したみたい』
そう言うと、智くんはすぐに入口を開けてくれた。
エントランスに入り、エレベーターに乗ると震える手で部屋の階までのボタンを押した。
どうしよう、ドキドキして心臓が飛び出しそう。
エレベーターが止まると智くんの部屋まで歩いた。
ドキドキは止まることなく、私の足まで震えた。
ドアの前でインターフォンを鳴らすと智くんはすぐに出てきて私に照れくさそうに微笑みかけた。
『どうしたの?忘れ物って何?』
『うん。とりあえず入ってもいいかな?』私は恐る恐る聞いた。
『あぁ、いいけど。』
智くんは不思議そうな顔をして私を中へ通した。
リビングへ行くと『忘れ物ってどこに置いたの?』と聞いてきた。
『智くん、ごめん。忘れ物は嘘なの。』
『えっ?』
『あのね。』自分の鼓動がものすごい早さで動いているのがわかって物凄く緊張した。
『嘘ってどういう事?』
不思議そうに私を見た。
私は思い切って『好きなの。私の気持ちを伝える事を忘れたの。』一気に言い終わると緊張が解けたのかその場にヘナヘナと座り込んでしまった。
『トモちゃん。大丈夫?』彼が私の視線に合わせてかかんで私を見つめた。
私は智くんの顔を見て『返事、返事は?』
『えっ?』
『だから、私今、告白したんだよ?』
『あはは、ごめん。トモちゃんが急に座り込んだから。』
『ごめん、大丈夫だから。』
私はしっかりと智くんを見つめた。
『トモちゃん、俺の気持ちはわかってるでしょ?さっきも言ったようにさ、俺はいつでもトモちゃんに会いたい。』
『うん、それで?』
『好きだよ。』智くんはちょっと照れて、ふふっと笑った。
『うん。。』
私は泣いてしまった。
智くんは、そっと私を抱きしめた。
『なんか、ごめん。遠回りさせちゃって。』
智くんは私を抱きしめながらそう言った。
『ううん。遠回りしたのは私がいけないの。』
私達は、しばらくそのまま抱き合っていた。