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私も絵を描く。
彼も描く。
そんな単純なことで、いや2人にとっては大事な事だ。
私と彼は絵について、いろいろ話した。
画材は何を使ってるとか、画材をどこで買うとか。
『今度、個展やるんだよな?』潤くんが横から口を挟んできた。
『あ、うん。個展やるよ。』
『そうなんだ!すごい!』
彼は嬉しそうに笑った。
それから、連絡先を交換して、時々画材を一緒に買いに行った。
でも、本当にそれだけ。
絵の話以外は盛り上がらないし、一緒にお茶をしてもいつも静かな人だった。
『智くんはさ、絵の他に興味はないの?女の子とか?』
私が聞くと彼はふふと笑って首を横に振る。
『女の子かぁ。あんまりな。。』
『ふーん、そっか。でも釣り好きなんでしょ?テレビでも言ってたし。』
『あぁ、釣りは好きだよ。』そう言ってニコッとする。
そのニコッとした顔に太陽の光りが当たってなんだかとても綺麗に見えた。
あれ?智くんって、こんなに綺麗な顔だったっけ?
『ん?どうしたの?』
『えっ?ん?』
『なんか、ボーッとしてるから。』
『ごめん。もう帰ろうか?』
『えっ?まだ頼んだケーキ来てないよ?』
『私、ちょっと用事を思い出して。ごめんね。』
『いいけど。』
彼は不思議な顔をしながらお会計をしていた。
『ごめん、まだ飲み終わってないのに払わせちゃった。』コーヒーショップのドアを開けながら私が言うと『今度おごってよ。』とニコリと笑う。
その笑顔になんだかドキッとしてしまった。
智くんの後ろをそっと歩く、あんまり人目につかないようにいつも並んで歩くのはやめていた。
こうやって歩くのは何度目だろう。
もう、何度も一緒に行動してるのに何だか今日は智くんが違う人に見えた。
大通りを早足で抜けると人目のつかない路地に出た。
自販機がいくつか並んでいる前で智くんは、立ち止まると水を買った。
ズボンのポケットから小銭を出して自販機にお金を入れる仕草、ペットボトルの蓋を開ける仕草。
ゴクゴクと飲んでいる時に動く喉仏。
やだ、私。どこ見てんだろ(笑)
智くんが、飲みながらこっちを向いた。
『トモちゃんも飲む?』
『へ?』
『ん?どうした?』
急に名前を呼ばれてドキッとした。
『ごめん。大丈夫。』
やだ、どうしたんだろう。
この人といると胸が苦しい。
なんで・・・?!
『智くん、私先に帰るね。』そう言って私は足早にその場をあとにした。
何だろう。
ダメだ。
もっと、一緒にいたいと思う反面、一緒にいると苦しくなる。
これって。
好きなのかな。
智くんの綺麗な顔を思い出しながら立ち止まって動けなくなった。
好きなんだ。智くんが。
でも、彼を好きな気持ちは口にしてはいけないと思った。
だって。彼はテレビに出るような人だし。
無理だよね。
私は自分の家までどうやって帰ったのかわからないほど自分の気持ちに動揺していた。
家に帰ると同時にカバンの中のiPhoneが鳴った。
潤くんからだった。
―トモ?
―潤くん、どうしたの?
―おまえさ、なんかあった?
―えっ?!何急に?
私はiPhoneを耳に当てながらカバンを床に置き、部屋の隅にあるベッドに座った。
―さっきさ、リーダーから電話があって。なんか急に帰っちゃって俺なんかしたかなーって、
どうしたの?
―別に。ちょっと用事があったし。
―用事?それにしてはオレからの電話、すぐ出たけど?
電話の向こうの潤くんは何もかも察しているように思えた。いや、きっとわかっていた。
勘の鋭い人だ。
―・・・
―聞いてんの?
―ごめん、聞いてる。
―ちゃんと電話してあげてよ?大野さん気にしてるからさ。
―うん。でも、、
―何?でも?
―やっぱいい。
―あのさ、トモはどう思ってるの?大野さんの事。
―ん?どうって?
―気になってるんだろ?違うの?今日だって、急に帰って来ちゃって。自分の気持ちに気付いてドキドキしたとか、そんなだろ?
―///////
―黙ってないで。聞いてんの?
―もう、なんなの?!潤くんって昔からそうだよね。勘が良すぎだよ。
―何年 友達やってると思ってるの?そのくらい分かるって。
潤くんは、電話の向こうで笑った。
もう、潤くんにバレたんじゃ智くんにバレるのも時間の問題だ。
絶対、智くんにバラすもん。
だからって自分の気持ちに気付いたのも今日だし。
告白?
なんか違う気もするし。
でも、やっぱりいろいろ考えると私は智くんが好きらしい。