思いようユーモア短編集 (69)先読み | 水本爽涼 歳時記

思いようユーモア短編集 (69)先読み

 将棋や囲碁を本職にされている棋士の先生方は、いざっ! とお思いかどうかまでは分からないが、^^ 棋戦が始まれば必死に先読みをされるのが常套(じょうとう)手段だ。残り時間が僅(わず)かになったときの悩ましいご心境は、お察しするに余りある。^^
 幽霊の間では、とあるプロの囲碁棋戦が行われている。
「十秒ぅ~~二十秒ぅ~~、一、二、三…」
 そして時間切れとなり、煙草(たばこ)六段は軽く頭を下げ、負けを認めた・・なんてことにはならず、先読みした手をやんわりと動かした。^^
「7の十、割り込み…」
 その手に一瞬、対戦者の角鹿(つのじか)九段は訝(いぶか)しげに首を傾けた。『その手が成立するのか?』という顔である。成立すれば、角鹿九段の大石は取られ、投了もやむを得なくなるのだ。しかし、角鹿九段にはどうしても成立するようには思えなかった。角鹿九段は動じない表情で手にした扇子を派手にパタパタと煽(あお)ると、ビシッ! と急所へ石を打ち据(す)えた。それを見て、煙草六段は静かに頭を下げた。負けを認めたのである。割り込みは、勝ちがない…と見た煙草六段の投げ場だった。投げ場で割り込むなよっ! と、怒れるところだが、まあ、仕方がない。^^ 
 この一局の敗着は、煙草六段の先読みのし過ぎによる一手にあった。物は思いようで、先読みのし過ぎは何も考えなかったことにも成り兼(か)ねない訳だ。早い決断が功を奏す場合もあるのである。皆さん、クヨクヨ考え過ぎないよう心しましょう。^^

                   完