水本爽涼 歳時記

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足らないユーモア短編集(全100話)9/30~ 連載中![隔日連載] ^^
生活ユーモア短編集(全100話)
<再掲>/7/31~ 連載中![隔日連載] ^^
                    
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生活短編集 36 人材屋 <再掲>

 今日も朝から人材屋は大賑(おおにぎ)わいである。
『はあ、さようで! 真言宗ですか…。おっ! ちょうど手頃なのがおります。そうでございますね。今からですと、そちら様へは九時前には着けると存じます! はい! では、そういうことで…。今後とも、ご贔屓(ひいき)に! はい! 有難うございました~!!』
 手配室の電話で客を上手(うま)くあしらったのは人材派遣の店・人材屋の主人で本坂という。本坂は机上のリスト簿を開け始めた。電話では、いると言った本坂だが、実のところ手頃なのは、これから探すつもりなのだ。そして、しばらくして確認した本坂は、すぐ内線電話をいれた。
『おい! 川北君、真言宗だから君の出番だ。先方さんはすぐ来て欲しいと言っておられる。よろしく頼むよ』
『分かりました。すぐそちらへ行きます』
 待機室には手頃な人材が多数、詰めている。医師、教師、家庭教師、弁護士、牧師、僧侶、庭師、理髪師、マッサージ師…など、公職を除くありとあらゆる職業の者、ざっとその数、200人ばかりが室内で出番を待っていた。これだけいると、当然ながらまったくお呼びがかからない者達もいた。彼等は日長、将棋や囲碁などをやっていた。もちろん、教えているのはアマチュアながらプロに引けを取らない有段者達で、職業として控えている連中である。だが、お呼びがかからない者達でも、給料は生活に困らない程度の一定額が支給されていた。中には、数か月、いや一年以上、まったくお呼びがかからない者達もいた。川北は待機室の中で、特に人気がある僧侶の一人で三宗旨を受け持てた。川北は依頼先の詳細と住所を確かめるため、手配室へと向かった。
「ああ、川北君。行ってもらうのはここだ」
 本坂は入ってきた川北に依頼先のデータが書かれた紙を手渡した。
「ほう! 家じゃなくてホールですか?」
「ああ。なんでも知り合いの寺がないそうだ」
「都会じゃそういうの、最近、多いですよね」
「だな…。九時前には行くと言ったから急いでくれ」
「分かりました。では、さっそく」
 川北は手配室を出ると、衣装室へ向かった。衣装はひと揃い、どんな職業のものもあった。衣装室へ入った川北は、帰って来て着替え中の安西と出会った。安西は牧師で、一泊二日で結婚式へ出張していたのだ。
「やあ、ごくろうさんでした! どうでした?」
「ああ、これは川北さん。新郎新婦とも幸せそうでしたよ」
「それは、なによりでした。私はこれから告別式の読経です」
「お気の毒なことです…」
「ははは…人生ですなぁ~」
 二人は顔を見合わせ笑った。人材屋は今日も大賑わいである。


                 完

足らないユーモア短編集 (5)道具

 とある地方都市に住む太木(ふとき)は、休日の朝、DIY[do it yourself=日曜大工]を始めた。ここ最近、土、日は趣味のDIYに埋没ぎみの太木だったから、少し体重は細木ぎみになっていた。^^ しばらく、製作途中の植木棚を弄(いじく)っていたが、買ったボルトが内六角ネジだと、ふと、気づいた。太木が買った板にはネジ釘が付いていたのだが、太木は軽い発想で、そのネジ釘はプラスかマイナスのネジ山で、短時間に組み立て可能だろう…という読みだったのである。残念ながら太木の道具箱には内六角ボルト用の道具がなかった。道具が足らない以上、作業はどうしようもない。
『まあ、仕方ないか…』
 と、言うでもなく独りごち、太木は道具を買いに出て、その日の作業は来週回しとなった。
 道具が足らないと作業が中断しますから、事前の確認をしましょう…というお話でした。^^

                   完

生活短編集 35 一発勝負 <再掲>

 どういう訳か須藤君は失敗が許されない一発勝負に弱かったんです。それは、彼がメンタル的に弱いということも多分にありましたが、どうもそれだけではないようだ…と、腕組みしながら部活顧問の富岡先生は考えていました。これは、僕が先生から直接、聞かされたお話です。
 須藤君は、その日も部室に一人残り、トランペットを吹いていました。その様子を近くで富岡先生が腕組みして見ているという構図です。須藤君は上手(うま)くいった…と思った瞬間、指先が狂って途轍(とてつ)もない場違いな音を出してしまうのでした。その現象は、いつもぶっつけ本番の演奏で起こりました。練習とかでは上手くいっていたものが、どういう訳かステージとかに上った瞬間、もっと細かく言いますと、観客席に大勢の人がいたときなんですが、そうした場合に限り、必ず起こるというものでした。
「訳が分からんなぁ~。上手く吹けてるじゃないか」
 彼の持ち場の演奏が滞(とどこお)りなく終わったとき、富岡先生は首を傾(かし)げながらそう言いました。
「僕も上手く吹いてるつもりなんです…」
「そら、そうだろう…」
 須藤君は手に持ったトランペットを椅子の上へ置くと、先生を真似るように腕組みして首を傾げました。それを見た富岡先生は、真似をするな! とばかりに、両腕をだらりと下ろし、ズボンのポケットへ入れました。すると、須藤君もすぐ、そうしました。
「妙な奴だ! …まあ、いい。今日はもう遅い。帰りなさい」
「はい…」
 須藤君は富岡先生に一礼し、トランペットをいつもの保管場所へ戻すと部室を出て行きました。発表の演奏日が迫(せま)っていました。富岡先生は、どうしたものか…と思い悩みながら部室の鍵をかけました。
 次の日の放課後、男女のブラスバンド部の連中がぞろぞろと部室へ入ってきました。僕もその中にいて、皆(みんな)とワイワイやっていたのですが、須藤君だけは隔離されたように一人、浮いていました。須藤君が話しかければ話しますし、こちらから話しかけても須藤君は話すのですが、なぜか皆とは違和感があって浮いていたのです。だから、それは誰の責任でもありません。今、考えれば、やはり須藤君がまた発表会でドジるんじゃないかという潜在意識が皆にあったからじゃないか…と思えます。
「須藤! いい方法が見つかったぞ」
 そのとき、富岡先生が息を切らせて部室へ入ってきました。
「お前は、振りをしろ!」
「振り?」
 須藤君は訝(いぶか)しげな表情で富岡先生を見ました。
「そうだ! 吹いた振りだ」
「吹いた振り? ですか?」
「ああ、本番では音を出さずに指だけ動かしてろ。なにせ、一発勝負だから失敗はできん。今度失敗すれば、俺は顧問をやめんといかん。お前の持ち場は一年の増田に舞台の袖(そで)で吹かせる」
「分かりました」
「まあ、お前には悪いが、安全策だ」
 須藤君も自分が迷惑をかけていることは分かっていますから、素直に頷(うなず)きました。
 演奏会当日、須藤君は上手く吹く振りをしました。それが、なかなか上手かったのです。
「お前な。ブラバンやめて、演劇部へ入れ! 言っといてやるから」
「はあ…」
 須藤君は富岡先生の言葉に頷きました。今では演劇部の部長をしている須藤君ですが、なかなかの名演技で好評を呼んでいます。なんでも、劇団試験にパスしたとかで、プロになるようです。演奏の一発勝負では駄目だった須藤君ですが、演劇では上手くいってよかったです。


                 完

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