水本爽涼 歳時記

※ シナリオや小説等を掲載するブログです。閲覧はご自由でございますが転載・転用等はご遠慮をお願い致します。あらかじめ、ご了承下さい。   All Rights Reserved.
       泣けるユーモア短編集(全100話) 7/18~ 連載中![隔日連載] 

       怪奇ユーモア百選(全100話) <再掲>5/6~ 連載
![隔日連載]
           
 水本爽涼・cocolog ブログ     水本爽涼・googleブログ
 

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>
2018-08-19

泣けるユーモア短編集 -17- 雪(ゆき)

テーマ:ブログ

 雪(ゆき)も適度に降るなら、いい風情(ふぜい)となり、趣(おもむき)を醸(かも)すのだが、降り過ぎれば、いかがなものか…などと国会答弁のようなことを言わねばならなくなるから困る。さらに、時間に追われているときなど、[雪かき]という余計な手間(てま)をかけさせられ、思わず、ぅぅぅ…と泣けることにもなるから考えものだ。まあ雪不足に悩まされ、降れば降るほど有り難いスキー場などは別なのだが…。
 夕暮れが迫る、退庁直前の町役場の一コマである。
「またかっ!」
「なにがです?」
「降り出したじゃないかっ! 雪がっ!!」
 課長の捨場(しゃば)がサッシ窓を指さし、課長補佐の屑川(くずかわ)に愚痴(ぐち)った。
「私に言われても…」
 屑川としては言葉を自分にポイ捨てられた気分がし、面白くないから思わず返した。すると、どういう訳か、捨場は突然、ぅぅぅ…と泣き出した。泣けるようなことを言った訳でもなく、泣ける状況でもないから、屑川は思わず訝(いぶか)しげに捨場の顔を窺(うかが)った。
「これから大事な人に逢(あ)うんだよっ!」
「えっ?」
 それが泣けること? と、益々(ますます)、屑川は分からなくなった。
「三十数年ぶりのね、私の初恋の人。ぅぅぅ…」
「ああ、そうなんですか…」
 屑川とすれば、それが雪とどういう関係が? くらいの気分である。
「外だよ、外! 駅の外! 待合い場所がっ!」
「はあ!」
「寒い上に、雪だよっ! 彼女は態々(わざわざ)、田舎(いなか)から出てきてくれたんだよっ!」
「はあ!」
「寒いじゃないかっ! 冷えるし、濡(ぬ)れるじゃないかっ!」
「ええ、まあ、そうなんでしょうね…」
「君というやつはっ! 不人情だなっ! ぅぅぅ…」
 屑川は理解できず、もう一度、捨場の顔をそれとなく窺った。
 雪は、ぅぅぅ…と泣ける状況を作る場合もあるのだ。

                        完

2018-08-18

怪奇ユーモア百選 53]傘化(かさば)け <再掲>

テーマ:ブログ

 昔々(むかしむかし)、あるところに傘化(かさば)けという不思議な妖怪がいたそうじゃ。その妖怪は奇妙なことに来る日も来る日も、山裾(やますそ)の登山口で傘をさして立っておったという。それがなぜなのかは誰も分からんかった。というのも、立っておるだけで別に悪さをする風でもなかったからじゃ。ただ、通りかかった者に化け、しばらく山道をあとからついて突然、消える・・という風変わりな妖怪じゃった。
 ある日のこと、権助(ごんすけ)という村の百姓が山へ入ろうと通りかかった。その日も、さも当然のように傘化けは権助の姿で傘をさして立っておった。それがどういう訳か、権助には心なしか寂しそうに見えたという。おう立っておるのう…と、権助は遠目に見て思いながら、気づかぬ態(てい)で登り始めた。すると、権助に化けた傘化けは後ろをついてきたそうな。
「どうかしたのけ?」
 思わず権助は訊(たず)ねてしもうた。その途端、声に驚いた権助に化けた傘化けは姿を消した。なんだ人騒がせな…と権助は思いながら山道へ入ろうとした。すると、どこからともなく子供の声がした。権助は耳を澄ました。
『新しい傘をくれぇ~新しい傘をくれぇ~』
 権助にはそう聞こえたそうじゃ。何のことか初めは分からんかった権助じゃったが、ふと見ると広げられた破れた番傘が近くに見えてのう、訳が分かったんじゃそうな。権助は次の日の朝、新しい番傘を持って山裾まで行き、置いて帰った。その日以降、権助によいことづくめの日々が続いたという。傘のお礼ということなんじゃろう…と、村の衆は話しておった。味をしめようと別の百姓が傘化けに山へ登る訳でもなく近づいた。
『なにか妖怪?』
 傘化けの方がダジャレで先に訊ねたそうな。そうは問屋が卸(おろ)さぬ・・ということかのう。

                        完

2018-08-17

泣けるユーモア短編集 -16- 縁起絵巻(えんぎえまき)

テーマ:ブログ

 柚子山(ゆずさん)胡椒寺(こしょうじ)には開祖(かいそ)豆腐大師(とうふだいし)の時代から伝わる絵巻物が大事に保管(ほかん)されている。国の重要文化財に指定された所謂(いわゆる)国宝で、そのレプリカが一年に一度、前立てでお立ちの仏様のように特別拝観になるという情報を得た食気(くいけ)は、心勇んで当日、寺へと出かけた。奇妙なことに、この縁起絵巻を拝観した者すべてが、ぅぅぅ…と涙して寺を出る・・という曰(いわ)く付きの寺ということもあり、食気の心は寺へ着く前から、すでに寺を拝観しているような気分になっていた。
『ははは…いくらなんでも泣ける、ということはないだろ…』
 バスに揺られ、車窓に流れる景色を見ながら、食気は馬鹿馬鹿しい話だ…と思った。
『次は胡椒寺前、胡椒寺前でございます…』
 車内アナウンスが流れると、食気はすぐにボタンを押した。バスを下りた途端(とたん)、拝観を終えた観光客が涙に暮れながら停留所で待っているではないか。それも全員が、である。
「そんなに泣けるんですか?」
 思わず食気は、その中の一人に訊(たず)ねていた。
「ええ、そらもう! ぅぅぅ…」
 何がそんなに泣けるんだっ!? …と、食気の好奇心は益々(ますます)、高まっていった。拝観料を支払い、仏様そっちのけで絵巻物の展示コーナーを覗(のぞ)くと、そこは剥(む)かれたタマネギで満ち溢(あふ)れているではないか。それも、みじん切りにされているから堪(たま)らない。タマネギから放散される硫化アリルという物質で辺(あた)りは満ち、当然、拝観者達は、ぅぅぅ…と涙せずにはいられなかった。入った食気も例外ではなかった。
「ぅぅぅ…、そら泣けるはずだ」
 寺から出た食気は、ようやく得心がいって呟(つぶや)いた。風変わりな寺もあるものだが、聞くところによれば、寺の僧にも分からない寺に伝わる慣習だそうだ。絵巻物の内容は美味(おい)しく湯豆腐を食べる極意図で、なんてことはなく、どうも見せないようにするため・・とかなんとかのセコイ理由らしかった。まさか、寺が? と、余りのセコさに泣ける話ではある。

     
                   完

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス