逆転ユーモア短編集 -98- 雪の朝 | 水本爽涼 歳時記

逆転ユーモア短編集 -98- 雪の朝

 前日の夜、木枯らしのような雪起(ゆきお)こしの冷たい風が吹いていたから、氷柱(つらら)は、たぶん明日(あした)は雪が積もっているだろう…と、気象予報官にでもなったように偉(えら)そうに思いながら眠った。別に偉そうに思うほどのことでもないのだが、予想はドン、ピシャ! で、大当たりだった。上手(うま)い具合に正月休みを取らず仕事をしていたから、勤(つと)めを数日休める・・というラッキーな巡りで、こりゃ、ラッキー・ストライクだなっ! …と、アメリカのタバコの銘柄(めいがら)のようなことを思わなくてもいいのに、また思った。逆転した発想だと雪の朝は、どういう訳か世の中の慌(あわ)しさが消え去るように氷柱には感じられた。第一に毎朝の車の騒音が途絶えるのである。というのは、雪道で危(あぶ)ないから、車は速度を上げてビュンビュンとは走れないからだ。第二として、いつもの朝とは違う雪明りと静けさが清浄(せいじょう)な景観を醸(かも)し出すのだから不思議といえば不思議だった。
「ああ、ご苦労さんです…」
 雪かきをしようと通り過ぎたご近所の一人に、氷柱は思わず声をかけた。よく見れば、それは子供だった。
「…」
 見ないで声をかけてから気づいたのだから、どうしようもない。子供はニタリ! と笑顔で通り過ぎた。
「…」
 氷柱は無言(むごん)で罰(ばつ)悪く家の中へと撤収(てっしゅう)した。
 雪の朝は思わぬ逆転した錯覚を与えるようだ。

       
                   完