逆転ユーモア短編集 -76- パフォーマンス | 水本爽涼 歳時記

逆転ユーモア短編集 -76- パフォーマンス

 体裁(ていさい)を繕(つくろ)う・・とは、よく言われる言い回しだ。所謂(いわゆる)、他人に対して格好をつける、見栄(みえ)を張る・・ということだが、よく口にするパフォーマンスという言葉がピッタリと当てはまる。
 とある会場の体育館では年末恒例の腕相撲大会が行われている。大会はいよいよ佳境(かきょう)へと進み、準決勝に勝ち残った二人の選手が多くの観客に対し、雄叫(おたけ)びを上げながら登場した。少し、テレビのK1実況中継を真似ていないでもない。
「決勝戦を行います! …赤コーナ~~!! ○□町、禿川(はげかわ)選手~~!!!」
 MC[マスター・セレモニー]がマイクを強く握(にぎ)り締(し)め、興奮した大声でガナリ立てた。それに呼応(こおう)するかのように、禿川は力瘤(ちからこぶ)を観客に向けて大げさに見せるパフォーマンスをした。この辺(あた)りもテレビ中継と似ていなくもない。
「青コーナ~~!! △◎村、髪白(かみしろ)選手~~!!!」
 髪白も禿川に負けてはいない。片腕を激しく回わすパフォーマンスを観客に見せつけた。両者とも外見は強そうに見えた。ところが、である。内情は二人とも逆転していた。禿川は勝ち上がってきた試合で筋肉に痛みを覚え、限界を感じていた。片や髪白も腕を回したとき関節に痛みが走っていた。審判[ジャッジ]が二人の手の握りを確認したときだった。二人はパフォーマンスとは裏腹に試合を棄権(きけん)した。結果、3位決定戦が事実上の決勝となり、優勝、準優勝者は餅(もち)を鱈腹(たらふく)食べられることになった。
 世情はパフォーマンス流行(ばや)りだが、パフォーマンスは逆転して、力量に乏(とぼ)しい。

    
                   完