逆転ユーモア短編集 -74- 弱肉強食(じゃくにくきょうしょく) | 水本爽涼 歳時記

逆転ユーモア短編集 -74- 弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)

 世は当(まさ)に、せち辛(がら)い弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)の様相である。強い者は弱い者を弄(もてあそ)ぶように利用して好き勝手に生きられるが、弱い者は強い者に虐(しいた)げられ、這(は)い蹲(つくば)って生きねばならない世界なのである。この世界が一定の段階まで到達したとき、逆転して主客転倒すれば面白いだろう。
 これからお話しする世界は西暦○○○○年のとある町での出来事である。
 一定の高度を法定速度でスムースに飛ぶ飛行タクシーの中で、乗客の二人が語り合っている。
「ははは…まあ、今の弱肉強食もそう長いことじゃないはずですよ」
「いや、それは弱肉の私もそう思っとるんです。なにせ、コレだけ暮らし向きが苦しくなってる訳ですから、そろそろお迎えがねっ!」
「はいはい、それそれっ! そろそろと、私も踏んどるんですよ、ははは…」
 お迎えとは立場が逆転し、富んだ暮らしをしていた強食者達は虐げられていた弱肉者達と同じ奈落の底へ沈み、逆に、虐げられていた弱肉者達は強食の富んだ暮らしを満喫(まんきつ)できるという経済システムのチェンジである。
「すると、食われてばっかりの私なんか、どうなるんっすかねっ?」
 運転手がバックミラー越しに二人を見ながら、話に割って入った。
「ああ、弱肉のあんたか…。あんたも会社の役員くらいにはなれるんじゃないのっ!」
「そうそう、あんたが座ってる運転席は、たぶん強食の専務くらいが座ってるだろうさ、ははは…」
「ははは…強食から弱肉ね。そりゃ、いい」
 運転手は陽気な声で返した。
「ただ、いつからか・・が、分からないからっ!」
「それそれっ!」
「でしょ?!」
 客同士が掛け合い漫才のように間合いよく話した。
「早くお願いしたいもんですなっ!」
 運転手が加えた。
「それそれ!」「それそれ!」
 二人の客は異口同音に返した。やがて、飛行タクシ-は二人の客が指定したターミナルへと着陸した。
「おお! かわりましたなっ!」
 ターミナルの電子掲示板が地球経済のシステム変化を告げていた。
 このお話は飽くまでも弱肉強食が逆転するというフィクション[虚構]です。^^

      
                   完