逆転ユーモア短編集 -68- 繰り返し | 水本爽涼 歳時記

逆転ユーモア短編集 -68- 繰り返し

 物事が同じように繰り返されれば進歩がない・・と考えるのが一般的だが、逆転して考え、当然、進歩の逆で荒廃も有り得る・・と考える人は少ないだろう。だから世の中は新しい方向へと進んでいく訳だが、これは世界にとって正しいようで非常に怖(こわ)い、注意を要することなのである。
 とある商店街の中で、昔ながらの佇(たたず)まいを残し、商(あきな)いを続ける一軒のうらぶれた店があった。周囲の店はすべてが新しい近代的な店に様(さま)変わりしていたから、その店だけが目立っていた。ある時、もの珍しさで訪れたテレビ局の取材があった。
「川原津(かわらず)さんのお店は昔とちっとも変わりませんねぇ~。懐(なつ)かしい当時の物が、いつも置いてあるという評判なんですが、お見受けしたところ確かに…。あの…つかぬ事をお訊(き)きしますが、こんなものを今の時代でも仕入れられるんですか?」
「えっ? ええ、まあ…。私らの店は世間の店とは少し違ってましてね、異質ですから…」
「異質? といいますと?」
「異質(いしつ)は異質です。並みの質(しつ)じゃないということです」
「並みの質じゃない? …そのあたりのところを、もう少し詳(くわ)しくお聞かせ願えないでしょうか?」
「ほう…いいですよ。昔のことを繰り返しておるだけですから…」
「繰り返し・・ですか?」
「ええ、繰り返しです。もう、いいでしょうか?」
「はい…」
「この取材が繰り返しになるといけませんから…」
「はあ?」
 インタビュアーは意味が分からず、訝(いぶか)しげに川原津を見た。
「いや、まあ、そういうことです…」
「はあ…」
 訝しげに取材陣は取材を終え、撤収した。繰り返し・・とは、まあそういうことなのである。

     
                   完