SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -10- | 水本爽涼 歳時記

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -10-

「今朝は綺麗だなぁ…」
 城水が坂を降りきり、車を停止させながら、ゴミひとつ落ちていない横交差道路の路面を見た。坂の下の道路の通行は街専用道だから、ほとんど他の車の通行はなかった。それでも一応、坂下には追突の危険防止のための信号が設置されている。こんなところに? と、誰もが首を傾(かし)げる位置に設置された信号機だったが、当然ながらそれは奥様会の圧力によるものだった。交番の巡査二人も首を傾げて、工事業者に訊(たず)ねたくらいで、なんでも、警察庁の長官官房から回り回って決定されたということらしい。ここまでいけば、奥様会はすでにモンスター的で、街全体を震撼(しんかん)させる存在だった。この街では、奥様会と聞けば泣く子も黙って愛想笑いをしたのである。
 車は、いつものように坂下の駐車場へ置き、そこから地下鉄までは徒歩で歩くのが城水の通勤ルートの通例だった。城水に限らず、坂の上に建てられた家々の外出は、もっぱらこの手で、坂道の通行はこれ以外には考えられない・・と住民の誰もが考えていた。
「半月ばかり前はゴミ捨て場だったが…」
 城水は駐車場に車を停車させると、降りながらひとりごちた。城水が揶揄(やゆ)したのは少し誇張(こちょう)されていたが、多くのゴミが散乱していたのは確かだった。恐らくは運転中の車内から落ちたものではなく、風に飛ばされて舞い落ちたり、通行人が落としたもの、ポイ捨てたもの・・と判断できた。さらに推理を進めれば、この急勾配(きゅうこうばい)を往来する歩行者は少ない訳である。というか、ほとんど皆無なのだ。