SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -8- | 水本爽涼 歳時記

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -8-

 城水が引っ越してきた街一帯は、急こう配の坂の上に豪華な家々が立ち並んでいる。買物に出かけた帰り、上の方でリンゴでも落とそうものなら、これはもう大変なことで、一番下まで約1Kmは転がり落ちる・・といった塩梅(あんばい)である。リンゴ一個くらいのことで騒げば、奥様会の会員として世間体が狭くなるから、誰も拾(ひろ)いに降りない。結果として、リンゴは下を歩く人が手にすることになる。そんなことででもないが、坂の下の角には街交番があり、リンゴはその交番へ届けられることになる。結構、この手の遺失物の届け出が多く、交番に最近赴任した、藻屑(もくず)巡査は手を焼いていた。もう一人の老巡査、昆布(こぶ)はベテランゆえか、まったく意に介(かい)していなかった。
「昆布さん、今日もありましたね…」
「いつものことだよ、藻屑君。気にしなさんな」
「そうは言いますがね。こんなもの…二日もすりゃ、腐りますよ! 誰が取りに来ます?」
「まあ、来ないだろうな」
「でしょ?」
「捨てりゃ、いいじゃないか。私は何十年とそうしてきた」
 昆布巡査は大きめの声で断言した。
「ああ! それから、先ほど奥様会から電話がありましたよ」
「奥様会か…。なんだって?」
 昆布は苦手なものに見たように、顔を歪(ゆが)めた。