SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -5- | 水本爽涼 歳時記

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -5-

「ママ、出てっていないよ、パパ」
「ふ~ん…どこへ行ったんだ? 買物か?」
「よく分からないけど、奥様会・・とか言ってたよ」
 ああ、そういや、出がけにそんなこと言ってたな…と、城水は朝の寸劇を思い出した。
「食事の用意は出来てるって…」
「そうか…」
 玄関まで漂(ただよ)うカレーの匂いがした。城水は手早く済ませたか・・と、カレーを作る里子(さとこ)のちゃっかり顔を思い浮かべた。
 里子が帰宅したのは夜も深まった10時過ぎだった。
「遅かったな…」
 喉(のど)から手が出るほど訳を訊(き)きたかった城水だったが、どうでもいいような顔で新聞に目を通しながら口を開いた。雄静(ゆうせい)は子供部屋へすでに入り、いなかった。
「そうなのよ! 出がけに言ったでしょ」
「ああ…」
 城水は徐(おもむろ)に新聞を閉じ、里子を見た。そこには普段、目にしたこともないマネキンのような金ピカの里子が立っていた。マネキン…やはり、そうとしか表現しにくい、きらびやかな里子の姿である。婚前も含め、今までそんな里子を城水は見たことがなかった。
「ど、どうしたんだ、お前! …」
 気でも狂ったかっ! と、出かけたが、城水はそこまで言わなかった。いや、怖(こわ)くてとても言えなかった。