SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -3- | 水本爽涼 歳時記

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -3-

 城水には連れ添って10年になる妻の里子(さとこ)と、今年、小学校へ入学した雄静(ゆうせい)がいた。本当は静雄と名付けたかった鳥雄だったが、今どきの名じゃないと里子に反対され、仕方なく雄静と名の前後の漢字をひっくり返した経緯(いきさつ)があった。決して城水の体内で眠るUFOの潜在意識がその名にさせた訳ではない。
 城水の家は山の手の高級住宅地にあった。場違いだったな…と、城水が気づいたときは家の契約が纏(まと)まったあとで、すでに遅かった。引っ越しで空いた一軒家で、物件としては申し分ない! と即決したのが運の尽(つ)きだった。周囲のすべての家が会社重役、大富豪、芸能人の類(たぐい)で、ブルジョア階級の真っただ中の家だったのである。大聖小学校の一教師とは、とても釣り合いがとれたものではない。それでも、引っ越した最初の頃は、まだよかった。お隣と朝の出勤どきに出食わしても、軽い挨拶程度で済んでいたからだ。それが、半年ばかりした頃、問題が起き始めた。
「あなた、大変!」
 出勤しようと靴を履(は)き終え、城水がドアを開けようとした矢先だった。
「なんだ、出がけに…」
 城水は動きを止め、出鼻(でばな)を挫(くじ)かれた機嫌悪そうな声で里子を見た。
「奥様会だって!」
「…奥様会? なんだ、それは?」
「この町内の決まりだって言ってらしたの」
「誰が?」
 城水は、帰ってからでもいいだろうが…と煙(けむ)たく思った。