コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 特別編 | 水本爽涼 歳時記

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 特別編

『ここは、やはり寛(くつろ)げますねぇ~』
 小次郎は大欠伸(おおあくび)を一つうって、長閑(のどか)な声で里山に言った。
「しばらく帰ってなかったんだから、まあ、ゆっくりしてってくれ。…ゆっくりしてってくれと言うのも、なんだが」
『有難うございます』
 小次郎はペコリと頭を下げた。小次郎に合わせるかのように、みぃ~ちゃんも、『どうも…』とばかりに首を二度、縦に振った。モモだけは、新しい家が珍しいのか、アチラコチラと動き回ってはしゃいでいる。
『おじいちゃま?』
 突然、止まって里山の顔を見上げたモモが訝(いぶか)しげに訊(たず)ねた。
「ははは…、俺もじいちゃんか。参ったなぁ~」
 里山は後頭部を手で弄(まさぐ)りながら苦笑した。
「あらっ? モモちゃんも話せるのね?」
 沙希代が朗(ほが)らかに言った。
『そうなんですよ奥さん。僕に似たみたいでしてね』
 小次郎は、まんざらでもなかった。
 その後、一時は[時の猫]として世界中の学者達が追い回した追跡の手も遠退いていたし、業界の仕事も里山マネージャーのお蔭(かげ)で最初の頃に比べれば随分、楽になっていた。世は桜が満開乱舞する春たけなわ。一介の捨て猫が…と思えば破格の出世である。小次郎は、しみじみと幸せを噛みしめ、尾っぽの先を軽く振った。

                   <特別編> 完

  あとがき
 連載(全五編)は一応、終結を見た。登場者の労をねぎらい、特別編を加えさせて戴いた。本作は、動物の視点から面白く書かせてもらったつもりである。よく考えれば、人間の方が動物に見 倣(なら)わねばならない時代に至っているのかも知れない。
 世界の趨勢は益々、殺伐とした色合いを加えつつある昨今である。そうだから、という訳でもないが、笑いが込み上げる小説の創作に燃える日々である。

水本爽涼