コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 特別編 | 水本爽涼 歳時記

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 特別編

 欄漫(らんまん)の桜が咲く堤防上の小道の草叢(くさむら)に里山、小次郎、みぃ~ちゃん、それに新顔の娘猫、モモがゆったりと座っている。モモは小次郎似でもないのだろうが、人間語が話せた。それが遺伝子を受け継いだということなら、これはもう学会で論議を呼んでいる突然変異説が消えることになるのは必然だった。ただ、里山はモモが話せることを、まだ発表したくはなかった。
「手話通訳がいるんだよな…」
 里山がポツンと言った。みぃ~ちゃんは手話を勉強していたから、手ぶり、尾ぶり、口毛(くちげ)ぶりで気持を里山と小次郎、モモに伝えることが出来た。これは、みぃ~ちゃんの猛特訓で、同じように小次郎達も野球のサインの要領で覚えるうちに意志が通じ合えるようになったのだ。孫娘を見るような目つきで沙希代がモモを見た。みぃ~ちゃんは、いつものように手ぶりならぬ尾ぶりで里山達のご機嫌を窺(うかが)う。
『里山家はいいお家(うち)ですね…とか申しております』
「ははは…小次郎邸に比べりゃ、お粗末この上ないんだけどね」
『いいえ、寛(くつろ)げますわ…と申しております』
「それだけが我が家(や)の取り柄(え)だからね」
 里山は少し満足げに返した。
 天気は快晴で心地よい。桜の花びらがそよ風に揺れ、なんとも優雅だ。里山達は沙希代が作った花見用のお重を食べる。小次郎達は小鳩(おばと)婦人が花見用に作らせた特注の猫用パックを食べている。話ぶりでは、断れない財界の挨拶があるそうで、「そちらが済み次第、参りますざぁ~ます」ということらしい。里山としては来て欲しくない気分だったが、みぃ~ちゃんの立場上、無碍(むげ)に断れなかった。だから、まあ、今のうちに楽しんでおこう…と、里山は考えた。気疲れすることは目に見えていた。

                                           つづく