コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<49> | 水本爽涼 歳時記

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<49>

 仕事が終わり里山と小次郎が家の門を潜(くぐ)ると、玄関戸の前には旅に出たはずの股旅(またたび)が、ドッシリと腰を下ろして里山達の帰りを待っていた。
「どうされました? 股旅先生…」
 里山は玄関戸を開けず腰を下ろして訊(たず)ねた。
『いやなに、小次郎殿は[立国]の趣旨(しゅし)を勘違いなさったようでござるのう。手前が申したのは、飽くまでも個々の過程のこと。猫国を立国するなどという大仰(おおぎょう)な話ではござらぬ』
『そうなんですか? 先生!』
 小次郎はキャリーボックスの中から大きめの声を出した。
『おお、小次郎殿。そういうことじゃて、ホッホッホッホッ…』
『ご主人! 出して下さい』
 小次郎に急(せ)かされ、里山はキャリーボックスを開けた。次の瞬間、勢いよく飛び出た小次郎は、股旅の前へ腰を下ろした。
『よく聞かれよ、小次郎殿。みぃ~殿と仲、睦(むつ)まじゅう暮らされることじゃ。それこそが[立国]。他猫ごとではのうて、ご自分の身のことでござるよ。ホッホッホッホッ…』

 小次郎は考え違いに気づかされた。
『分かりました、有難うございます。次の放送で取り消します』
『それが、よろしかろう。これだけは言っておかねばと思おてな、戻(もど)って参ったのじゃ。で、なければ、ド偉いことになりそうじゃったからのう。では、これにて…』
 そう言い終えた股旅の姿は、まるで疾風(はやて)のようにスゥ~っと玄関前から消え失せた。