コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<43> | 水本爽涼 歳時記

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ⑤<43>

 この日のテレ京での収録は評論家や学者達との対談だった。対談とは形式上の謳(うた)い文句で、要は一斉射撃的な質問の矢玉(やだま)に晒(さら)されるのは必定だった。小次郎はこうした対談に何度も出演していたから不安感はなかったが鬱陶(うっとう)しく思えていた。猫カフェ[毛玉]でこのとき、小次郎はある想いを浮かべていた。このことを里山を始め沙希代も知らない。当然、運転手+雑用係の狛犬(こまいぬ)が知るよしもなかった。
「さあ、行こうか!」
 里山達が腕を見た。二人と一匹が毛玉を出たのはその五分後だった。
「また、どうぞ…。小次郎さん、頑張って下さいよ!」
 マスターの虎川は里山達が店を出るとき、その後ろ姿に声を投げかけた。
『いやぁ~、どうも! がんばります!』
 突然、呼ばれた小次郎はキャリーボックスの中でビクッ! とした。小次郎さんと、さんづけで呼ばれ、小次郎の気分が悪かろうはずがなかったのだが…。
 車がテレ京へ到着し、放送とは無縁の狛犬は、いつものように局の駐車場で待機した。待機とは名ばかりで、彼にとっては待ちに待った至福の車内睡眠時間なのである。里山も小次郎もそのことは分かっていたが、口にしないのが通例だった。
 対談形式の収録は一人の学者の到着が30分ほど遅れるということで、時間待ちとなった。かなり権威のある世界的に著名な学者だったが、里山は本末転倒だろう・・と少し怒れていた。そこはそれ、聞く手の評論家や学者達が待ち望む中で華々しく小次郎が登場する・・というのが普通だろう! と思えたからだ。