コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<18> | 水本爽涼 歳時記

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<18>

 だが、小次郎は眠っていなかった。眠っている素振りを見せ、すべてを聞いていたのだ。
 小次郎は、目を閉じたままそれとなく耳を動かした。里山と小次郎にだけ通じる微細な合図である。里山は小次郎に話が伝わったことを、すぐ理解して頷(うなず)いた。その顔を運悪く振り返った沙希代が見ていた。
「どうしたの? 変な人ねぇ~」
 沙希代は訝(いぶか)しげな顔をした。
「んっ! いや、なに…。肩が凝ってな」
 里山はカムフラージュするように首をひと回しして、片手で肩を叩(たた)いた。
 夜が更けた頃、里山は寝室を抜け出し、小次郎と話していた。
「まあ、ニャ~ニャ~言っててくれればいいさ。ホームビデオに映すってのは、よくあるパターンだからな」
『僕も、いよいよ華々しくデビューする訳ですね』
「ははは…そんな、いいもんじゃない。編集するとか言ってたから、数分。下手(へた)すりゃ数秒かも知れん」
『そうなんですか? なんだ…』
 弾(はず)んでいた小次郎の声が小さく萎(しぼ)んだ。
「まあ、そう言うな。俺もいろいろ考えてるんだ。大ごとにするには、まず沙希代だ。恐らく、大騒ぎになるだろう。上手(うま)く分からせたとして、さて…」
『マスコミ対策ですか?』
「ああ、それもあるが、会社もある。お前で食っていけるかも考えんとな。恐らく、世界の話題になるのは必定だしな」
『はあ、まあ…それもそうですね』
 里山は腕組みし、小次郎は毛をナメナメした。