連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十七回) | 水本爽涼 歳時記

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十七回)

  幽霊パッション 第三章    水本爽涼                                                                           
                                        水本爽涼 歳時記-幽パ③ 97                                           
    第九十七回
 二つの光輪は反対方向へ昇りながら消えていった。結局、霊魂平林の第二段階の昇華が取り消されなかったのは、自身で動かなかったからである。もちろん、特別の事由が生じている時は、動いたとしても霊界からの叱責(しっせき)はないのだが、上山と霊魂平林が活動している点では叱責の対象となるところだったのだ。霊魂平林は上山に云われた内容を、ただ念じただけであり、成果はすべて如意の筆の荘厳な霊力によるものだったから、昇華が取り消されなかったのだ。もし、過去のように国連や諸外国へ直接、飛んだり現れていれば、結果はまったく違うものになったように思われた。
 上山が日々、移りゆく成果をメディアで知らされている頃、霊界の霊魂平林は、静止状態で安らげることなく、ユラユラと住処(すみか)で流れていた。心境は当然ながら昇華に対する心構えで乱れていたのである。もちろんそれは、不安感ではなかった。ただ、安息できないという心境で、人間界で云うところの眠れない状況と似通っていた。しかし、ただの一御霊(みたま)である霊魂平林には、どうしようもなく、ただ住処の中を流れている他なかった。
 その頃、上山のいる人間界では新たな異変がメディアを通して報じられていた。国際連合に地球語の国際的流通を管理推進する組織が新たに誕生したのである。これは、従来の国という単位を突破(ブレーク・スルー)する地球連邦国の初期の姿に他ならなかった。
「ユーロという通貨連合システムはヨーロッパにも、あるがな…」
 上山は順調な成果の進展に北叟笑(ほくそえ)みながら読み終えた新聞をテーブルへ置いた。そこへ霊魂平林が現れた。もちろん上山には、霊魂平林の姿は見えないくなっているし、呼び出した訳でもないから、気づいてはいない。霊魂平林は上山の1メートルばかり近くをグルリと一周すると流れるのをやめ、ユラユラと霊尾(れいび)を振った。
『課長! 僕ですよ』
「なんだ! いたのか…。姿が見えんから、ギクリ! としたぞ。最近は、どうも心臓に悪い…」