連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十一回) | 水本爽涼 歳時記

連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十一回)

  幽霊パッション 第三章    水本爽涼                                                                           
                                        水本爽涼 歳時記-幽パ③ 91                                   
     第九十一回
『はあ…。岬亜沙美なる者がおりまするが…』
『その者は、どのような者じゃ?』
『昇華予定の平林なる者を見えるという上山という者の勤めおる会社の者の妻でございまするが…』
 霊界番人は霊界簿の霊界紙を見ながら、静かに云った。
『もう少し、分かり易く申せ!』
『はは~ぁ。あい済みませぬ。早い話、同じ会社の者の妻でございまする…』
『初めから、そう申せばいいではないか…』
『はあ…』
『そうよのう…。では、その者に宿らせることとする』
『分かりまして、ございまする。で、その時期は如何(いか)ように?』
『近々…、そうじゃのう。十日ばかり後(のち)で、よかろう』
『はは~ぁ』
 大小、二つの光輪は、一瞬にして消え去った。こうして、霊魂平林と上山の身の変化は、この会議で決定されたのである。そんなことが霊界トップ間で話されていようとは、当の本人達は、まったく知らないまま、霊界、人間界を、それぞれ動いていた。ただ、上山も霊魂平林も身の変化が近々、起こるに違いない…と、頭の片隅に置いていた。それが十日後になることまでは知らなかったのだが…。
 国連での、そして各々の国での地球語による新たな人類の歴史は、その十日ばかりの間に完璧に実施されるに至った。平林が幽霊だった昇華以前の頃、念じて以来、二人(一人と一霊)が活動をした訳ではない。それは加速度的な現象であり、如意の筆の荘厳な霊力によってと云う以外、他に云いようがなかった。
「そろそろ、奴も第二の昇華をするだろうな…。別れるのは辛いが…」
 上山は地球語システムが完成し、全世界で実施され始めた新聞記事に目を通しながら、そう呟(つぶや)いた。