連載小説 幽霊パッション 第三章 (第九十回)
幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第九十回
二人(一人と一霊)は、少し歩いたり流れたりしたあと、別れた。元々、霊魂平林に他意はなく、上山に自分の身の変化を伝えるだけの目的で現れたのだから、取り分けて心残りはなかった。
「課長! 世界情勢が、どんどん変わってますね。各国の紛争やらも終息しましたし、世界が一つになる地球語も完成しましたから、なんか、未来が明るくなってきましたよ」
上山が課長席へ戻ると、岬が上山に近づいて、そう云った。
「…だなあ。あっ! これ、よく出来てたぞ。出水君に渡しといたから、社長決裁で採用だろう」
「有難うございます。あの安眠枕二号は自信があるんです」
上山は表面上、ハハハ…と笑ったが、自分の携(たずさわ)った安眠枕一号が、さっぱり売れなかったことが脳裡を掠(かす)め、内心では会社の損失を少し憂いていた。しかし半面、自分と霊魂平林(当時は幽霊平林)がやった成果だと分かっているから、北叟笑(ほくそえ)む気持も台頭してきて、グッ! と我慢した。岬は話し続けたが、上山は一方的に聞く人となって、なんとかその場を凌(しの)ぎきった。
その日から一週間ほどは何事もなく過ぎていった。とはいえ、それは上山の身の上のことであり、地球上では武器輸出禁止条約から派生した武器及び戦略核兵器全廃条約が批准されるという新たな展開もあった。これは上山にとって予想外といえば予想外なのだが、如意の筆で幽霊平林が念じた念力が、まだ有効に働いていることを示す成果と云えた。
その頃、霊界では霊界会議が霊界番人と霊界司の間で開かれていた。
『如何(いか)ようにも、取り計らえまするが…』
『ふ~む。かなりの成果ゆえのう…。やはり、もう一段階、昇華させるか…』
『霊界司様の仰せのままに…』
『そなたは、どのように思いおる』
『はあ…。それで宜しいかと存じまするが、どの辺りに?』
『抜きんでておるゆえ、身近な者がよかろう。適した存在はおるかのう?』