連載小説 幽霊パッション 第三章 (第八十九回)
幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第八十九回
出た通路には、すでに霊魂平林がユラユラと流れているのだが、生憎、その姿は上山には見えていない。
『課長! ここです…』
「おお! いるんだな。どこだ? その辺りか? どうも姿が見えんと不便でいかん!」
『まあまあ、そう云わずに、課長』
霊魂平林は上山を宥(なだ)めにかかった。
「で、何か起きたか?」
通路を歩きながら、上山は訊(たず)ねた。
『そうそう、それを云わなくちゃ…。実は、今の僕の姿なんですが…』
「姿って、…私には君が見えんのだから…」
『ええ、それはそうなんですが一応、云っておこうと思いまして…。今の姿は課長が見ていたときの姿じゃないんですよ、もう』
「んっ? どういうことだ?」
『一段階、昇華したんです。もう幽霊じゃなく、霊魂なんですよ』
「霊魂って、人魂(ひとだま)のような?」
『はい! それです。…それです、って云うのもなんなんですが…。もう、生前の僕の姿じゃないんですよ』
「そうなのか…。それを私に?」
『はい』
霊魂平林はユラユラと上山の右後ろから右前へと流れた。
「分かった…。君も、やがて私の前から消えちまうんだなあ。まあ、君とは死んだときに別れてんだから、よく考えりゃ、他の者より深い付き合いをさせてもらったんだし、喜ばないとな…。それに、いろいろ人間離れした体験もさせてもらったんだから…」
『僕も課長とお別れするのは辛(つら)いんですが、まあ、かなりの正義の味方をやれた訳ですしね』
霊魂平林は冷んやりと笑った。幽霊の笑いは陰気なのだが、霊魂ともなると、冷んやりなのである。
第八十九回
出た通路には、すでに霊魂平林がユラユラと流れているのだが、生憎、その姿は上山には見えていない。
『課長! ここです…』
「おお! いるんだな。どこだ? その辺りか? どうも姿が見えんと不便でいかん!」
『まあまあ、そう云わずに、課長』
霊魂平林は上山を宥(なだ)めにかかった。
「で、何か起きたか?」
通路を歩きながら、上山は訊(たず)ねた。
『そうそう、それを云わなくちゃ…。実は、今の僕の姿なんですが…』
「姿って、…私には君が見えんのだから…」
『ええ、それはそうなんですが一応、云っておこうと思いまして…。今の姿は課長が見ていたときの姿じゃないんですよ、もう』
「んっ? どういうことだ?」
『一段階、昇華したんです。もう幽霊じゃなく、霊魂なんですよ』
「霊魂って、人魂(ひとだま)のような?」
『はい! それです。…それです、って云うのもなんなんですが…。もう、生前の僕の姿じゃないんですよ』
「そうなのか…。それを私に?」
『はい』
霊魂平林はユラユラと上山の右後ろから右前へと流れた。
「分かった…。君も、やがて私の前から消えちまうんだなあ。まあ、君とは死んだときに別れてんだから、よく考えりゃ、他の者より深い付き合いをさせてもらったんだし、喜ばないとな…。それに、いろいろ人間離れした体験もさせてもらったんだから…」
『僕も課長とお別れするのは辛(つら)いんですが、まあ、かなりの正義の味方をやれた訳ですしね』
霊魂平林は冷んやりと笑った。幽霊の笑いは陰気なのだが、霊魂ともなると、冷んやりなのである。