連載小説 幽霊パッション 第三章 (第一回)
幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第一回
上山と幽霊平林は国連本部ビルの上に存在していた。さすがに風は冷たく、頬を指す感が上山はした。もちろん、幽霊平林はどうってことない顔をしている。上山は、風による冷えより、立つ位置の高さに少し怖くなっていた。幽霊平林が念じて、日本からこの国連本部へ現れた、まではよかったのだ。ただ、現れる建物の位置が少しズレていた。こういう現れる位置とかの微細な精密さまでは、まだ幽霊平林の腕前では無理だった。
「おい! ここは駄目だろうが! ど、どうするんだ、君! なんとかしろ!!」
上山の声は震えていた。
『すいません! こんなとこへ現れるとは…。今一、不慣れなもんで…』
「そんなこたぁ~この際、どうだっていい! 早く別のとこへやってくれ!!」
『は、はいっ!』
幽霊平林も、こりゃ拙(まず)いぞ、と思えたのか、ただちに如意の筆を手にすると、両瞼(まぶた)を閉じて念じ始めた。国連ビルの上に吹く風は、いっこう衰えをみせず吹き荒(すさ)ぶ。こんなところに背広姿で立った者は、世界広しといえど、自分ぐらいのものだろう…と、上山は刹那(せつな)思った。幸いにもそんな思いが巡るほどの余裕ある立ち位置だったのだ。ただ、下界には各国のポールが見下ろせ、国旗が風で揺れる身がすくむ光景があった。もちろん、落下すれば死亡は確実な高さに立っていたのだ。いつもより早めに瞼を開けた幽霊平林は、少し急いで如意の筆を一、二度振った。するとたちまち、二人の姿は国連ビルの最上部より消え失せた。
ふたたび二人(一人と一霊)が現れたのは、真下より少し離れた国連本部の敷地内だった。現れた直後、二人は周囲を見回した。
「…まっ! ここでもいいが、出来れば中の方がいいな。だいいち、入口の通過で怪(あや)しまれないだろ?」
『ええ、それはまあ、そうですが…』
第一回
上山と幽霊平林は国連本部ビルの上に存在していた。さすがに風は冷たく、頬を指す感が上山はした。もちろん、幽霊平林はどうってことない顔をしている。上山は、風による冷えより、立つ位置の高さに少し怖くなっていた。幽霊平林が念じて、日本からこの国連本部へ現れた、まではよかったのだ。ただ、現れる建物の位置が少しズレていた。こういう現れる位置とかの微細な精密さまでは、まだ幽霊平林の腕前では無理だった。
「おい! ここは駄目だろうが! ど、どうするんだ、君! なんとかしろ!!」
上山の声は震えていた。
『すいません! こんなとこへ現れるとは…。今一、不慣れなもんで…』
「そんなこたぁ~この際、どうだっていい! 早く別のとこへやってくれ!!」
『は、はいっ!』
幽霊平林も、こりゃ拙(まず)いぞ、と思えたのか、ただちに如意の筆を手にすると、両瞼(まぶた)を閉じて念じ始めた。国連ビルの上に吹く風は、いっこう衰えをみせず吹き荒(すさ)ぶ。こんなところに背広姿で立った者は、世界広しといえど、自分ぐらいのものだろう…と、上山は刹那(せつな)思った。幸いにもそんな思いが巡るほどの余裕ある立ち位置だったのだ。ただ、下界には各国のポールが見下ろせ、国旗が風で揺れる身がすくむ光景があった。もちろん、落下すれば死亡は確実な高さに立っていたのだ。いつもより早めに瞼を開けた幽霊平林は、少し急いで如意の筆を一、二度振った。するとたちまち、二人の姿は国連ビルの最上部より消え失せた。
ふたたび二人(一人と一霊)が現れたのは、真下より少し離れた国連本部の敷地内だった。現れた直後、二人は周囲を見回した。
「…まっ! ここでもいいが、出来れば中の方がいいな。だいいち、入口の通過で怪(あや)しまれないだろ?」
『ええ、それはまあ、そうですが…』