連載小説 幽霊パッション 第二章 (第百十二回)
幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第百十二回
『なになに…。売り手の輸出量上位国は、多い順にアメリカ、ロシア、ドイツ、チャイナ、イギリス、フランス、スウェーデン、イタリアの順か…。結構、輸出している国は多いんだ…』
霊界万(よろず)集には、人間界の本のような発行年月日はなく、終始、最新の内容が浮き出るのだ。そもそも、印字ではなく霊字であり、人間界の印刷された本とは、まったく本質が異なり、一線を画(かく)した。下手なギャグではないが、正(まさ)に、本の質の本質である。
『これだけ輸出国が多いと、個々に念じないとゾーンでは駄目みたいだ…』
また、幽霊平林は呟(つぶや)くと、溜め息をついた。そして、しばらくすると、ついに決心したかのように呟(つぶや)きの声を漏らした。
『とても、課長に云われたようには出来ないぞ。よし! ここは一つ、霊界番人様にお伺いしてみよう』
胸元の如意の筆を手にした幽霊平林は、両瞼(りょうまぶた)を静かに閉ざした。その状態が一、二分ばかり続き、両瞼をふたたび開いた幽霊平林は、如意の筆を軽く振った。すると、たちまち霊界番人が現われる前兆の一筋の光が彼方(かなた)より住処(すみか)目指して降り注いだ。次の瞬間、光輪がその道を伝うように降下し、幽霊平林の前へ現れた。
『いったい何事じゃ! 儂(わし)は忙しいのだ。このような呼び出しを受けたのは、ここ最近、なかったことじゃ。…どうした?』
『申し訳もございません、霊界番人様。実は、早急にお訊(たず)ねしたき儀がございまして…』
『ほう、早急にのう。…そなたは如意の筆を授けられし者じゃな?』
『はい、さようで…。霊界司様のご意志でございました。実は、社会悪を滅せよ、との厳命につき、いささか分からないことが生じまして…』
『ほう…、何が分からぬ?』
『はい。実は僕、・・いや私と上司で社会悪に立ち向かっていたのでございますが、その一つとして、起こっている国々の暴動、紛争の撲滅を考えた訳でして…』