連載小説 幽霊パッション 第二章 (第八十六回)
幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第八十六回
「ははは…。まあ、ある意味、試合だがな」
『相手は見えざる敵ですか?』
「人間の心理的(メンタル)な部分だから厄介だ」
『しかし、この如意の筆の威力といいますか、効力といいますか、そんなの凄(すご)いですよね。僕も最初は面食らいましたから…』
「いや、それは私も同感だよ。青木ヶ原樹海に飛んだなんて、夢としか未だに考えられんよ」
『いえ、それは厳然たる事実ですから』
「ああ、そうなんだが…」
上山と幽霊平林の会話は、途切れることなく続いた。
結局、幽霊平林が正確に現れる練習を重ね、自信がついた段階で上山に連絡をするということで二人(一人と一霊)は別れた。このことは当然、それ以後の活動も制限されたことを意味する。上山にしても、田丸工業に勤めている関係上、多少の心づもりもあったし、土、日を潰(つぶ)して外国での行動となると、それ相応の健康面のケアも考えねばならん…と思えた。さらに想いを馳(は)せれば、現れた外国で自分がすべきことは? と巡れるのだ。幽霊平林が念じて如意の棒を振る…そこまでは、いい。しかし、自分は何をするのだ。ただ黙って幽霊平林の行動を見守っていればいいのか…。それなら、自分が現れずとも幽霊平林だけで十分じゃないか…と、素直でない、いじけた気分が頭を擡(もた)げ、慌てて打ち消す上山だった。
一方の幽霊平林は、霊界の住処(住処)で練習に明け暮れていた。というのも、彼の技術力が高まらなければ、上山との共同作業ともいえる世界での正義の味方活動は一歩も進まないからだった。住処内の机を前に、霊界筆記具で計画を立てながら、幽霊平林は霊界⇔人間界の行き来を繰り返していた。要は、計画に決めたポイントの地点へ正確に現れることが出来るか、に尽きた。