スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第九十二回)
あんたはすごい! 水本爽涼
第九十二回
「有難うございましたぁ~!!」
「また、いらして!!」
「あっ! 沼澤さん。私も帰ります。一緒に出ましょう」
沼澤氏の歩みが止まり、カウンターを振り返った。私は慌てて右隣の椅子上に置いたトレンチコートを羽織りながら云った。
「私は駅へ出るのですが、塩山さんは?」
「はい、私も同じです。ここへ寄った時は、いつもそうしています…」
いつものダブルと、この前のコーク・ハイの分を含めて支払いながら、私はそう云った。ママが釣銭を出そうとしたが、沼澤氏が格好よく支払った後だったから、自分だけ間が抜けた、ぶ男に思われるのも嫌で、貰(もら)わずに沼澤氏を追った。
「有難うございました~!!」
「満ちゃん、またねっ!!」
なんとか格好よさを維持して店を出た。外は冷気が覆っていた。私は駅までトボトボと沼澤氏と歩いた。
「すっかり寒くなりましたなあ~」
クリスマスが近づいてるのだから当然、寒いのだが、沼澤氏はいままでそのことに気づかなかったような口ぶりで云った。
「ええ…。今度、お会いできるのは年が改まってからですかねえ」
「ははは…。こればっかりは分かりません。明日、ばったりと、なんてこともありましょうし、二度とお目にかかれないってことも…」
「ええ、一期一会などと云いますからねえ…」
「左様ですとも…」
沼澤氏は、また古風な言葉で返した。