スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第六十九回)
早希ちゃんは、なかなかの美声で唄った。瞬く間に唄い終え、客二人から、やんやの拍手喝采である。その賑やかさが私のいるカウンターまで伝わってきた。こちらはママとお通夜だった。お通夜な場と披露宴な場…。どう考えても私の場の旗色は悪かった。
「終わったようね…。で、さあ~」
「えっ? はい!」
久しぶりの早希ちゃんの美声に聴き惚れ、ついママの話を忘れてしまっていた。全くもってママには失敬千万な話である。
「まだ、そんなのは大したこっちゃありません、って云うのよお~」
「何がです?」
「困った人ねえ。だからさあ、さっき云ったじゃない。あなたの会社のこととかさあ~」
「ええっ! よく知ってるなあ~ママ。会社のことは知らない筈(はず)ですよ。だって、しばらく寄ってないんだから…」
「えっ? 会社でまた何かあったの? そうじゃなくって、私が云ったのは接待がチャラになったって話」
「ああ…その話ですか。驚くなあ~、いや、参った参った」
「あら、いやだ。こっちが参るわよぉ~。それにしてもさあ、何かまたあったの? 会社」