スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第六十六回)
第六十六回
その日は賑やかな課内の動きはあったが、それ以上の混乱する異変も起こらず、一日が終わった。私としても、異変がそう連日、続くとは思っていないし期待もしていない。というか、むしろそう度々(たびたび)異変が起こって貰(もら)っても私が困惑するのである。理由は至極簡単で、安定した生活が望めないし、それ以上に、起こっていない事に対する漠然とした不安を抱くのは嫌だからだ。早い話、ドキドキビクビクの日々を過ごすのは困るということになる。もちろん、それが沼澤氏が告げた大幸運だったとしても、である。
そんなこんなで十日ばかりが過ぎ、第二課の混乱も終息する様相を見せ始めていた。要は、電話対応の本数が次第に減ってきた…、もう少し分かりやすく云えば、爆発的な受注契約が先細りし始めたということである。事が生じる前の閑静な課内ではないにしろ、ようやく課員達は落ち着きを取り戻しかけたのだった。一過性の右肩上がりか…と、私は机上の契約件数を示すグラフ書類を眺めた。前の席に座る児島君が作成したものだった。件数は減少が著しかったが、契約額はすでに昨年の我が社の契約額を優に超えているのだから、鳥殻(とりがら)部長に叱責される心配は全くなかった。