スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第六十三回)
第六十三回
「目に見えんことですからなあ。…いや、私が塩山さんの話を聞いたところで、どうこうは出来んのですが…」
「いいええ、禿山(はげやま)さんに話を聞いて戴くと、私も楽になります。なんか、同じことを知ってる人間がもう一人いるというだけでね」
「そうですか? 聞くぐらいのことでしたら容易(たやす)いことです。それで楽になるなら、いつでも云って下すって結構です」
「それじゃ、続きは孰(いず)れまた、ということで…」
そう云うと、私は椅子を立った。ここから、入室の時と同じ構図が展開した。即ち、①私が椅子から立つのを追って禿山さんが立ち、②私より先にドアへ近づくと鍵を開けてロックを解除し、③更には、ドアを開けて私を送り出す、という①~③の構図である。そういや、入りも出も①~③の構図があることに、ふと私は気づかされた。この構図は、どうも同じ繰り返しで続いているような気が私はした。決まりきったワンパターンを繰り出すのが禿山さんの癖だとすれば、それは彼の人となりを示す縮図なんだろう…と私は小難(こむずか)しく思った。
「楽しみにしとります…」
私が監視室を出た後、通路まで送り出してくれた禿山さんは、歩き去る私の背へ、決まり文句を柔らかく投げた。