水本爽涼 歳時記

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疲れるユーモア短編集(全100話)7/22~ 連載予定![隔日連載」乞うご期待!^^
よくある・ユーモア短編集(全100話)
<再掲>5/20~ 連載中![隔日連載] ^^
                    
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思いようユーモア短編集 (95)粗忽(そこつ)

 落語ファンの方ならよくご存じかと思うが、古典に[粗忽(そこつ)長屋]という演目(えんもく)がある。粗忽とは早い話、ポカミスのことである。ポカミス…これも分かりづらい言葉だから、もう少し分かりやすく言えば、うっかりした間違いだ。慎重にコトを進めていれば何の問題にもならなかったものが、ついうっかりと粗忽な行動で動いたために、そのコトがダメになったりする訳である。ものは思いようで、慎重にコトを進めていれば失敗は防げたのだ。ただ、粗忽のお蔭(かげ)でコトがスムースに運んで成就した・・というようなことも、あるにはある。今日は、そんな粗忽で起きた例外的な、いいお話である。^^
 とある街の証券会社である。一人の男が片手の指を二本立てて笑顔で証券マンと話をしている。
「いや! 今日は急ぐから、これだけ買っといてよっ! 頼んだよっ!!」
 そう告げると男は慌(あわ)てて証券会社から出て行った。そのとき男は、うっかりと粗忽なミスをしたことに、まったく気づいてはいなかった。笑顔で指二本立てたのを見た証券マンは二万株と勘違いしたのである。男は二千株をっ! という意味で指二本を立てて示したのだが、証券マンは二万株と思ったのだ。この証券会社では指一本立てれば一万株との決めが暗黙の了解事項となっていた。だが、男はそのことを知らず、粗忽にも指を二本、立てたのだ。男は、まさか二万株は買わないだろう…と軽く思った訳である。
「おい! 二万株の買いだそうだ…。値がさ株じゃなく高値で推移してるっていうのに、二万株かよっ!」
「まあまあ…。やっこさん、買えるから買ってくれって言ってんでしょっ!」
「ああ、まあな…。でも¥二千万だぜっ!」
「¥二千万ですか…。ははは…あるとこにはあるんだな」
 その数日後である。男は蒼ざめた顔で証券マンと対峙(たいじ)していた。
「ど、どうすんだっ!!」
「知りませんよっ! お客様が買ってくれって言ったから買っただけなんですからっ!!」
「お、俺にはそんな買う金はねえぞっ!!」
 男は慌てながら喚いた。
「そう言われましてもねぇ~。買ったものは支払っていただかないと…」
 そのとき、別の証券マンがガナり始めた。ガナるとは、興奮した状態で喚(わめ)き散らす様子である。
「た、大変ですっ!!」
「どうしたってんだっ!」
「ち、中東の紛争が合意して終結するそうですっ!!」
「それがどうしたっ!」
「あの二万株、ストップ高で…」
 別の証券マンは興奮のあまり言葉を失い、指を三本立てた。この証券会社の指三本は¥三億の儲(もう)けを指すのである。
「なにっ!! ということは、二万株が¥二千万だから、差し引き¥二億八千万の儲けかっ!?」
「はい、そうなりますっ!」
「ははは…そういうことだそうです、お客様っ!」
「ははは…俺もそうなると思ってさっ!」
 男の態度は急変し、俄(にわ)かに億万長者っぼい話口調になった。
 これが粗忽のお蔭でコトがスムースに運んで成就した
・・という一例である。ものは思いようで、粗忽で好転するケースもあるから、粗忽が悪いと一概(いちがい)に決めつけるのは間違いなのかも知れない。^^

                   完

よくある・ユーモア短編集 -26- 戻(もど)りたくなる  <再掲>

 何げなく新聞に目を通していた宮氷(みやごおり)は、殺伐とした記事の多さに、思わず読むことをやめた。ふと、宮氷の脳裏(のうり)に去来したのは、数十年前の長閑(のどか)だった頃の田園風景だった。あの頃は、物資はなかったが、皆が輝いていた。この国も輝いていた。だが今はどうだ。文明も進み、手に入れられないものはごく僅(わず)かになった。食べ物も他の物資も・・である。だが、人の心は荒(すさ)み、他人の痛みが分からない人間が増えた。家の前に芥(ごみ)をポイ捨ててなんとも思わない人間以下の生物だ。人間は最低限、そういうことは理性で止め、やらないのだ。宮氷はあの頃に戻(もど)りたくなった。その手の人間が少なかったあの頃に…。これはこの国に限ったことではなく、世界的に起きている物質文明がもたらした弊害(へいがい)だ…などと偉(えら)そうに思えていた宮氷の前に一本の竹輪の皿があった。宮氷が日課にして食べるマヨネーズを詰め込んだ竹輪で、これが宮氷の唯一の楽しみだった。来る日も来る日も・・竹輪の皿が置かれていない日はなかった。宮氷が若い頃からその習慣は続いていた。あれは…と宮氷は最初に竹輪を食べ始めた過去の瞬間に想いを馳(は)せた。あのときは美味(うま)かった! 宮氷は、そのときの味覚を想い出した。今は舌が肥えたのか、さほど美味い! とも思わなくなっていた。宮氷はあの頃に戻りたくなった。

                    完

思いようユーモア短編集 (94)別口(べつくち)

 別口(べつくち)という言葉がある。今日はどういう訳か、ふと浮かんだこの言葉についての話をしてみようと思う。本当に暇(ひま)な人だな、あんたっ! と言われる方もおられようが、思いようがそうなったのだから勘弁して戴きたい。^^
 最近、買い物をしてレジ近くに並んでいると、前に並ばれた中年女性が買い物籠を二つレジ台に置かれたのが見えた。それぞれの籠には買い物袋が広げられており、ははぁ~~ん、別口だな…と、すぐ分かった。その予想が確かになったのは支払いどきで、レシートを別にして欲しいとレジ係の店員さんに言われたからである。要は、頼まれた他の方の買い物を一緒にされた・・ということが推測できる。それ自体はとやかく言う筋合いの話ではないが、別口の一例として掲載した次第だ。他の例としては、奥様方が朝、昼、晩の他にプラスα[アルファ]で食される別口もある。^^
 とある宝くじ売り場である。別口で買った一枚だけが当たりくじで、本命で買った数十枚がカラスくじ[はずれくじ]だった男が、換金前にしみじみと思いに耽(ふけ)っている。
『ということはだ…。別口で買った当たりくじの換金分-カラスくじを買った総額= …鳴かず飛ばずか…』
 この男の思いようどおり、換金分から投資分を差っ引(ぴ)くと、残り僅(わず)かな金額になるだった。だが、男はニンマリと北叟笑(ほくそえ)んだ。
『まっ、いいかっ! 夢は楽しませてもらったんだからな…』
 宝くじを推奨(すいしょう)する訳ではないが、ものは思いようで、当たらなくても、このような別口の楽しみもある・・ということに他ならない。これは宝くじに限ったことではなく、すべての物事に共通して起こる事象だから、皆さん、成る成らないは別として、積極的に物事はやりましょう!^^
 
                  完
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