水本爽涼 歳時記

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疲れるユーモア短編集(全100話)7/22~ 連載中![隔日連載」^^
よくある・ユーモア短編集(全100話)
<再掲>5/20~ 連載中![隔日連載] ^^
                    
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疲れるユーモア短編集 (42)老化

 細胞が疲れると死滅(しめつ)する。死滅した細胞だらけになれば人は死ぬが、そうはさせまいっ! と頑張って新しい細胞が増産されるから人は命を維持して生き続けられる。しかし、その増産する力が追いつかなくなると、少しづつ細胞の数が減る。それが老化である。新校舎の廊下(ろうか)が前ほど滑(すべ)らなくなったなぁ~…と感じるのも、廊下が老化したということになる。^^
 とある病院である。知り合いの二人が待合室で話している。
「おたくも随分、寂しくなりましたなぁ~」
「はあ、そうなんですよ。ばあちゃんに続いてじいちゃんも、ですからな」
「いや、そうじゃなく。あなたが、です」
「わたしが? わたし、寂しそうでしたか?」
「ええええ、そらもう。頭の方が…」
「ああ、頭の毛ですか? はい、すっかり寂しくなりました。もう、賑(にぎ)やかにはなりませんでしょうな?」
「ええええ。それは無理かと。シャッター通りになったこの町の商店街と同じですなっ!」
「確かに…。町も疲れるんですな。疲れて年を取る。ところで、おたくは、どちらさんでしたかな?」
 残り少なくなった毛の老人は、妙なところで納得すると、訊(き)き返した。もう一人の老人は、『はは~~ん、疲れると脳も老化するんだな…』と感じた。そう感じた老人自身も老化で疲れることの多い自分を肌で感じていた。
 年とともに身体が疲れると老化していくが、老化すると、その老化を肌で感じやすくなるのである。ああ、嫌だ嫌だ。^^
                   完

よくある・ユーモア短編集 -73- 見方  <再掲>

 世の中には、両者に[齟齬(そご)が生じる]と言われる[見解の相違]、平たく言えば、[見方の違い]が発生することが、よくある。それは、はっきり言って、事物や事象に対する両者の捉(とら)え方が異なる点が大なのだ。例(たと)えば、富士山を目(ま)の当りにして、誰しもその優雅な自然の大パノラマに感動を覚えない者はいないだろう・・と思える。ところが、どっこい! 世の中には捻(ひね)くれ者もいて、『ちぇっ! たかが、山じゃねぇ~かっ!!』と、見向きもしない者もいなくはないだろう。それは見方の差異によるものなのである。こんなドブス…と一人の者が思ったとしても、別の者には可愛(かわい)いなぁ~と映るかも知れない訳だ。これも要は、見方の違いによる。
「おやじさん、これ値が下がったねっ! 大丈夫かい?」
 八百屋の店頭で、急に値が下がった松茸(まつたけ)の盛り篭(かご)を覗(のぞ)き見ながら、客が主人に訊(たず)ねた。
「ははは…よく見て下さいよっ! 旦那(だんな)。まだまだ大丈夫ですっ!」
「そうかい? …」
 客には少し前に見たときより、萎(しな)びて見えていた。
「ええ! 私が保証します。いい買い物ですよっ。ほらっ! 色艶(いろつや)のよさっ! ひと盛りで、土瓶蒸し、松茸の焼き物、スキ焼、松茸ご飯と、いろいろ味わえますよっ!」
「そうかい? そういや、そう見えなくもない…。だけど、余りにも安いじゃないか?」
「ははは…これはサマツですから」
「サマツ?」
 聞き覚えのない言葉に、客は訊(たず)ね返した。
「馬鹿松茸とも言われましてね。早く出回るんですよ。松茸に比べりゃ味は少し、という人もいますが、笠(かさ)が開いてない小ぶりのものは遜色(そんしょく)ないようです」
「そうかい…。そういや、美味(うま)そうに見えてきたよ。じゃあ、包んで貰(もら)おうか」
「へい、毎度!」
 客は包みを受け取り、代金を支払うと機嫌よく帰っていった。客が帰ったあと、八百屋の主人は、フゥ~と溜息(ためいき)を一つ吐いた。
「サマツでよかったよ…」
 そのサマツは、あと3日もすれば店頭に並べられない代物(しろもの)だった。
 やれやれ…と居間へ上がり、遅くなった昼食を食べながら主人はテレビを点(つ)けた。テレビには予算委員会の国会中継が映し出され、総理と野党党首が丁々発止(ちょうちょうはっし)の論戦を展開していた。
「見方が違うんだな…」
 二人の声を聞きながら、意味が分からないまま、主人はポツリと呟(つぶや)いた。
 見方の違いは十人十色(じゅうにんといろ)で、それにより話が纏(まと)まらなくなることは、よくある。

                    完

疲れるユーモア短編集 (41)先(さき)

 物事をやっていて、その先(さき)がどうなるか分からないと、不安定でおぼつかないから安心出来ない。安心できないと当然、疲れることになる。^^ 流行性の病気が蔓延(まんえん)しているという巷(ちまた)の報道を知れば、その先が不安になり、疲れるのは人の常である。誰だって見えない病(やまい)は怖(こわ)いが、その先がどうなろうと気にせず、なろうとままよっ! と心太(ところてん)のように太い心の持ち主は疲れることが全(まった)くない。今日はそんな先の話だ。^^
 とある繁華街である。一人の老人が、いつもの時間にいつものコースを、いつものように歩いている。
「妙だなっ? 人の気配がしない…。いつもだとザワザワ人が通るんだが…?」
 老人は辺(あた)りをキョロキョロと見回しながら歩(ほ)を進めた。そのとき、交差点の信号が赤に変わり、老人が立ち止まっていると、そこへ別の老人が、これまたいつものコースをいつものように散歩して現れた。二人は予期せず出食わしてしまったのである。^^
「おおっ! やっと人に会えましたっ! これで、ひと安心です。お宅はっ?」
 先に立ち止まっていた老人か感嘆(かんたん)しながらそう言った。
「えっ!? 私ですか? いつもの散歩ですよ、ははは…」
「なんだ、そうなんですか? 実は私もです…」
「それにしても、人が通りませんなっ!」
「はい! 例のアノせいでしょう…」
「ああ、なんとかいうアノ?」
「はあ、たぶん、そのアノだと…」
「人が多いと気疲れするもんですが、少ないのも、ですな?」
「はい、いないのも疲れます…」
「この先も、そうなんでしょうかな?」
「さあ、どうなんでしょう。私は余り先のことは考えないようにしています。先は疲れますから、ははは…」
「ははは…私もです。先は疲れます」
 二人は先のことを考えない気分で横断歩道を横切った。
 先を考えても疑心暗鬼となり疲れるだけで、それでどうなるものでもない。だから、考えない方が懸命なのかも知れない。^^


                   

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