「わ、きれい!」


翔ちゃんの部屋に 一歩足を踏み入れる。


思わず出た言葉に翔ちゃんが苦笑する。



「昔と違うって言いたいんだろ。雅紀。」


「くふふ。

あたり。」



なにしろ、あの頃の翔ちゃんの部屋と言ったらすごかった。

部屋に乱雑に積み上げられた雑誌に本に、服。



翔ちゃんの部屋に遊びに行こうもんなら、

翔ちゃんが足でものをよけながら、

居間まで行く道を作ってくれて、


俺らは、その道が切り開ける様子を

「モーゼの十戒のようだ」と、

笑い合ったものだった。




「ハウスキーパーさん来てんだよ。

俺の家事能力知ってるだろ?


ハウスキーパーさんつきってことで、

ここに住んでる。」



「そんなこと言って。

彼女さんじゃないの?」




しつこいけど、

ちらりと翔ちゃんを見ながら

言葉を返せば、




「俺、彼女がいて、

お前をここに呼ぶような

そんな不誠実なやつだと思う?」




翔ちゃんが、真面目な顔になって

俺に答える。



ああ、

翔ちゃん。


さっきまでの酔っ払った可愛い顔も、

さっきの照れた顔も、

そんな真面目な顔も、


どんな顔もかっこいいな。


そんな思いは、

胸にしまって、

翔ちゃんの方に向き直す。




「ごめん。

で、どうやって飲み直す?」



「そうなんだよなぁ。

酒はあるんだけどなぁ。


こういう状態でして。」



がば。

翔ちゃんが開けた冷蔵庫は、

ビールの缶と ミネラルウォーターと

10秒チャージのゼリーたちだけ。



「ふふ。

相変わらずなのは、

よぉく わかりました。


じゃ、Uberでもしますか?」



「わ。賛成っ。」


俺がスマホを取り出すと、

翔ちゃんが、

俺の肩にぶら下がるようにして、

背後から俺のスマホの画面を覗き込む。



翔ちゃんが俺の背中越しに画面を指差して、


「あれがいい。」

「雅紀。これ食べない?」



俺に話しかけるたびに、

俺の耳に翔ちゃんの息が吹きかけられて、

俺の身体の芯が

どんどんと熱を帯びた。







⭐︎つづく⭐︎








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