風は秋色。



草露白(くさのつゆしろし)。

朝昼の 温度の寒暖差に
草の葉に 露が玉のように輝く日々がやってきた。



色は空気にはつかないが
朝夕に
肌にあたる風の温度は 肌寒いとまではいかないが
確かに少し気持ちよくなって

なんとなく茜色に染まってきたようにも思う。



しかしながら 
日が登れば
まだまだ暑さが残る日々。





薄手の浴衣の翔さんを家に残して
店に出なくちゃいけない毎日は、
俺には結構辛すぎる。





思い詰めた顔して
万年筆を持って 原稿用紙に向かう翔さんが
色っぽくて
人に見せたくないのもあるし。




興が乗れば
時間を経つのも忘れ
食事も取らずに 
マス目に字を埋め続ける 翔さんも気になる。



ついでに言うと
扇風機にあたって はらりと風に舞い上がるさらさらした前髪も、
汗が 額から頬にたらりと 垂れる その姿もたまらないし、
背中に書いた汗が 張り付いた 浴衣の姿もたまんない。





って わけで。



へへへ。


俺は 昼になった瞬間。

勝手に半ドン。




隣のもんじゃ屋の きみちゃんに
うちの金物屋を任せて
今日は退勤と決め込む。


大体さ。
金物屋ってのは
冬の物が多くて
この季節には
みんな寄りつかないから 閑古鳥。



客が来たとしても
昔焼いてた 俺の茶碗目当てだからな。

ろくな客がくるわけはないと
商店街を 早歩き。





「翔ちゃあん。
帰ったよぉ。」

白T Gパンの足元は つっかけた草履。
まるで 後ろ足で砂をかけるかのように
草履を後ろに 投げ飛ばして
玄関の框(かまち)を上がっていけば、


「え?なんで?
雅紀?」


万年筆を持った翔ちゃんの
くりくりした瞳が大きく開かれる。



「くふふ。
翔ちゃんとお昼食べたくて
お昼で帰って来ちゃった。」




「あ。」


ぐぅぅぅぅぅ。


昼だと気づいた瞬間。
翔ちゃんの 腹の虫が鳴る。


「くふふ。その分じゃ、また飲まず食わずで
文を綴ってたね。

そんなんじゃ、
具合が悪くなるからね。

麦茶でも 飲んでそこで待ってて。」


お茶の間の扇風機の前に座らせて
金色のやかんで冷やした麦茶をコップに注いで
翔ちゃんの前のちゃぶ台におく。



「あ、ありがと。」


ごくごく。
麦茶を飲み干す 時
上下に動く喉元さえ 愛おしい。


ああ、
本当に 可愛らしいと思いながらお勝手に。



胡桃だれは先に仕込んで置いた。
椎茸は 醤油と砂糖で煮込んで
細かく刻み、
その たれは 冷やしておいた鰹出汁で 割っておく。

さっき商店街の八百屋で買った
茗荷と 葱と 大葉は細かく刻んでおき
生姜はすりおろす。

後 
翔ちゃんに少しは栄養もつけておかないと
抱き心地も悪くなる。
卵で薄焼き卵も焼いて 細く切って錦糸卵を作る。

後は、
鍋に湯を沸かして ほぼ準備は完了。




「うっわ。美味しそう。」


ちゃぶ台で 麦茶を手にして一息をついている翔ちゃんの前に
氷を落とした 
ガラスの鉢に入れた素麺と めんつゆ 胡桃だれ 
そして 茗荷 葱 生姜 大葉 海苔 錦糸卵の 薬味をおけば
豪華な昼食が 始まる。



「わ。美味しそう。
いただきます。」

箸を両手で持って 手を合わせ
目を輝かせる翔ちゃんを 横目で見ながら、


美味しそうなのは あなたなんだけどな。
この ゆっくりとした 初秋の午後。
どうやって 
翔ちゃんを食べようかと 
濡れた浴衣を見ながら考えた。







⭐︎おしまい⭐︎






久々の相櫻 
雨が降る日も 晴れの日も 
でした。



まるの ブログの 歩き方の 記事で
おすすめしてもらえたので 書く気になったよ。


(まるの ブログの 歩き方 はこちら)






一応初めて読む方に 説明しておくと
雨が降る日も 晴れの日も
は、
昭和初期の 相櫻もの。
文筆業の翔さんと
それを自分の家に囲っている 訳あり 金物屋さんの 
雅紀くんのお話。


季節の話と
茶色いご飯をかきたくて
書いているお話です。



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