記憶のなかにある、その映像は美化される。僕の場合過去の思い出の大半はそうだ。

今になってその過去の映像が呼吸を始める。これは始めての出来事だ。

楽しい思い出として刻んだはずの映像がいきなり続きを描きはじめたんだ。

思い出の続きが実際はどうだったか覚えていない事だけれどね、最悪の方向へ向かっていくんだ。

僕が始めて理科室で告白された時、僕は嬉しくて付き合った。これが記憶された映像だ。
ここからが勝手に編集された記憶。

告白され付き合い始めて半日が経過した。深夜、家族に隠れて始めて彼女となった人に電話したんだ。
その電話でどっきりだったと告白されたんだ。
僕は落胆して次の日学校に行くのも億劫になり、サボろうと考えた。

チャリに乗り駅に向かって走り出すと、女子校生を見かけるんだ。その人は僕の近所の女の子のお姉さんでしばらく見ない間にすっごい胸が大きくなっていた。いきなり僕はお姉さんに『おはよ、ぱいずりしてあげる?』って言われたんだけど実は妖怪だったんだ。

下半身を丸裸にされて僕は逃げたんだ。

ね?わけがわからなくなってそのうち本来の記憶ではなくなっているんだ。
そうやって楽しい記憶が塗り替えられてるんだ。


だから僕の記憶の大半がめちゃくちゃな記憶になっている事はわかってくれたよね?


僕はうつ病になってしまったと思って病院に行ったんだけれどうつ病の人は自分でうつ病とは言わないんだって。看護婦さんに言われたわけじゃない。受付の人に言われた言葉だよ。


僕は医者の所まで辿り着けずに受付で追い返されてしまったんだ。




しまったんだ。


終わりにしようか、今日の日記。


命はいつか尽きる。

だが心構えが必要だ。



いつまでも生きてはいられない。

いつか死ぬということを今のうちに解らせ、死ぬその日まで暴れ狂うがいい。


高いの時計も、高級バックも、全てを捨てると、きっともっと楽に息ができる。

と、思いますよぉニコニコ

って、テレビのなんかで言ってた。
『腎臓がかなり弱っていますね、黄疸の原因もそれからきていると思います。これらの症状が酷くなると人工透析が必要になります。現在の状態を知るためにもっと詳しい検査を必要としますので検査入院という事になります。看護婦の方から詳しい入院手続きがあるので待合室でお待ちください。』


18歳になったばかりの僕が、担当医から言われたこの言葉を理解出来なかったのは若いからじゃない。

あの兄が、僕の全てだった兄貴が、死ぬという現実を突き付けられた気がして、頭が真っ白になったんだ。

親父は発病から四年で息を引き取った。もしかすると、力一杯踏ん張って、四年ももったのかもしれない。
兄貴にそれができるだろうか、いや、一体金はいくらかかるんだ?虎ノ門病院という奇しくも父と同じこの病院で、兄貴は一体どうなるんだ。俺は金をたくさん稼いで、兄貴の病気を治すんだ、学校処じゃないだろう、保険?兄貴はどうゆう保険に入っていたんだ?会社にはなんて言ったらいい?誰に、なんて説明すればいい?俺は、、どうすればいいんだ、


これが僕の頭の中を駆け巡った正直な混乱の原因だ。
実際、看護婦の話も、医者の話も、耳に入ることはあっても、頭には入っていなかった。

全日制の高校から定時制の高校に変え、深夜のコンビニでバイトを始め、バイトが終わったら昼間は派遣の仕事をした。

詳しいサイクルを説明すると、

学校が午後5時半から始まり、9時に終わる。9時半からコンビニのバイトをして、朝の6時に終わる、7時半から携帯作りの派遣の仕事があり、それが午後4時まで、それからまた学校に行く。

寝る時間は仕事の合間や、学校が始まるほんの1時間程度。コンビニの休みを上手く調節し、体力回復を計った。コンビニは辞められなかった。食料には困らなかったし、新聞も見れた。

兄貴の検査入院は一週間程で終わり、連絡があるまでは自宅に帰っていいという事になった。


尿が出にくく、利尿剤で定期的に尿を排出し、体のむくみや黄疸を抑えていた。

兄貴も仕事をしながら逆に俺を助けてくれもした。

最悪な出来事から時は流れ、何とか俺も就職をして兄も病気と上手く付き合いながら、僕等は離れ離れに暮らしていった。


そんな中、兄は仕事を辞め遊んでしまっている。

俺はいい加減その情報を聞き流してはおけず、兄貴を叱りにいった。

仕事を途中で抜け、兄貴のアパートの階段を上がって行くとき、意識が薄れた。

気が付くと病院にいた。
兄貴も来ていたが、兄貴は何にも言わなかった。

俺の腎臓は機能していなかった。過度の疲労や精神的なものによって拍車をかけていたようだ。

笑うしかなかった。遺伝性が高かった。

兄貴は無理して笑っている。俺、働くからな、とか適当な事言って。


実際もうダメかと思った。
そしたら兄貴は言うんだ。
『俺の腎臓、一個やる。多分俺よりお前の方がヤバいから、、だからなんにも言わずに移植しよ?』

いつもみたいにヘラヘラしてたけど、その兄貴の優しい笑顔が大好きだった。


涙が止まらなかった。
もう、止めかたを忘れてしまったかのように、僕も兄も泣いた。



僕等は世界で二人しかいない。
くそ兄貴でも、いい兄貴でも、それは僕がいて成り立つ兄弟。

僕一人でも、兄貴が一人でもいけない。

笑って命を捧げられる、兄弟なのだ。
そんな事、こんな風に書くつもりはこれっぽっちもないけれど、書いているうちにこうなってしまったんだからしょうがない。


いつか、兄貴にも見せたいけど、やっぱり内緒にしておこうと思う。

ありがとうなんていったらきっと怒られそうだから。

だから知らない人に聞いてもらいたかった。


俺が、兄貴の幸せを誰よりも願っていることを。