世界のゴルフ界を席巻している韓国人プロゴルファー。特に女子選手の躍進には目覚しいものがあり、その代表格と言えば、アメリカ女子ツアーで活躍しているチェ・ナヨンだろう。

 2004年、アマチュアながら韓国女子ツアーで優勝し、同年11月、17歳でプロに転向。2008年からアメリカ女子ツアーに本格参戦すると、2009年のサムソンワールド選手権でツアー初優勝を飾った。翌2010年には、ツアー3年目、23歳でアメリカ女子ツアーの賞金女王に輝いた。

 非常に安定したプレイを誇り、世界ランキングは4位(6月25日現在)。その実力もさることながら、端正な顔つきとスレンダーなルックスから、韓国はもちろん、日本でも人気が高い。

 そんな彼女の活躍に目を細めているのは、キム・ジョンイルコーチだ。KGA(韓国ゴルフ協会)の国家代表および代表常備軍の女子担当コーチを6年間務めてきた彼が、前回のイ・ボミに続いて、今回は若き日のチェ・ナヨンについて語ってくれた。するとその話題の中から、韓国ならではのゴルフ観と、その本質を習得させるためのアプローチを垣間見ることができた。

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 チェ・ナヨンのことは、彼女が小学生の頃から知っています。彼女は11歳のときに父親の影響でゴルフを始めたのですが、ちょうどクラブを握り始めた頃に個人レッスンをしました。

 今でこそ”オルチャン(美形という意味)ゴルファー”の代名詞のような存在ですが、当時はとてもボーイッシュで、見た目は女の子というよりも男の子のようでしたよ(笑)。もっとも、体は小さく華奢で、体力もなく、そういうところは女の子でしたね。それでも、体の使い方がとてもしなやかでした。そのうえ、教えたことはすぐに吸収して、すごく賢い子でした。


 そんな彼女に、私が最初に教えたことは、ゴルフというスポーツの考え方でした。彼女に限らないのですが、ハン・ヨンヒ総監督と我々コーチ陣が、まず子どもたちに教えるのは、そこからです。

 一般的に、ゴルフを始めた人がボールを飛ばせるようになると、最初はどうしてもドライバーレンジで気持ちよくスイングして、ボールを遠くへと飛ばしたがるものです。しかしそこに、ゴルフというスポーツの本質はありません。

 ゆえに、我々が最初に子どもたちを教えるときは、ドライバーレンジでのレッスンは行なわず、実際にコースに出て、グリーン周辺のアプローチから教えます。「ここから3打でボールをカップに入れてみなさい」、「ここから4打でカップに入れるためにはどうすればいいか考えてごらん」といった感じで、さまざまな場所からボールを打たせるのです。

 いきなりティーグランドから実戦形式で練習する方法もありますが、非力な年少期やスイングが固まっていないときだと、飛距離も出ないし、スコアも伸びず、結果的にはゴルフへの興味が薄らいでしまいます。そうしたことは避けたいので、短い距離からチャレンジして、カップに入れる面白さを感じてもらい、ゴルフというスポーツの本質を教えるのです。

 それはつまり、ゴルフはボールの飛距離を競うのではなく、打数を競うスポーツである、ということです。いくら飛ばしても、打数が多ければ勝てないのがゴルフ。何より重要なのは、正確さ、ということを第一に教えます。

 チェ・ナヨンは、そうしたゴルフの本質をしっかり把握したうえで、順調に成長した選手だと言えるのではないでしょうか。


 そして彼女は、2010年に賞金女王に輝いたときに、”ベアトロフィー賞(年間平均最少ストローク)”も受賞しました。それは、彼女がアメリカに行っても飛距離に惑わされず、ゴルフの本質を忘れていない証だと思います。

 アメリカに渡ると、欧米選手のパワーに触発されて、飛距離への憧れを抱く選手は決して少なくありません。プロゴルファーならば、誰もが飛距離を少しでも伸ばしたいと思っていますから、それは仕方がないことですが、アジア人と欧米人では、そもそも骨格も体つきも異なります。飛距離に差が出るのは、当然のことなのです。

 車で例えると、欧米選手が5000ccクラスだとしたら、アジア人選手は2000ccクラス。排気量が違うのに、パワーで勝負しても勝ち目はありません。無理してパワーを求めてオーバーヒートしたり、エンジン構造そのものが狂ってしまったりしては、元も子もないのです。事実、飛距離への欲望からスイングを改造したのはいいけれども、そのせいで本来のフォームやリズムを崩してスランプに陥った韓国人選手もたくさんいます。

 結局、飛距離で対抗するのではなく、正確性で勝負することこそ、アジア人の選手がアメリカで勝つための近道であり、生きる道なのです。だいたい、2000ccの自動車は小回りが利くし、ハンドルコントロールも簡単でしょ?

 チェ・ナヨンはその真理を、身を持って証明してくれた最高のモデルケースだと、私は思っています。



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