「ちょっと……、ひどいじゃないの……」
低い声。不気味柳下の声。
「ヤッホー」と、田代先輩が柳下の後ろから、明るい声で桃花に挨拶した。
「ああ、信じちゃったんだ……」
田代は柳下のほうを見て、微笑んだ。
柳下は真顔で桃花を見下ろしていた。
「さっきの話し、全部、嘘だから……」
八橋は笑いながら言った。
嘘……。
「ホラ、部長、笑って」
柳下は引きつり笑いを浮かべた。
「またやったの、八橋」
「当たり前でしょ。新人歓迎の儀式だから」
儀式。桃花はやっと事態を把握できた。
「いつもやってるのよ、こいつ。ひどいやつ。いくら柳下部長が不気味だからってねえ」
どっきりか。このオカマやろう、騙された。
八橋は満足げに笑ってる。
「さあ、行くわよ、新人歓迎コンパだから」
田代が桃花に手を差し出した。
「あら、あら、腰抜かしてる、もしかして?」
「怖すぎるよ、部長」
ダンベルを上げ下げしながら、羽田が肩を貸して、やっと、桃花は立ち上がった。
飲み会は盛り上った。
改めて読モとして、田代先輩を見ると、さらに素敵女子に見えてしまう。
普通に読モが隣にいるなんて、やっぱ、東京だ。
ちょっと酔いが回ってくると、オカマやろうが気になりだした。
私をドッキリに引っ掛けるたあー、何様だ。
気持ち悪いんだよ、てめえ。
幽霊が苦手だなんて、情けない。
ゴキブリも蛇もジェットコースターも大丈夫なのに。
「でも幽霊怖がるなんて、可愛かったよ」
八橋はそう言って、笑った。
可愛い……。私が可愛い。
おかまに言われてもいい響きだ。
まあ、可愛いなら仕方ない。
幽霊怖がるのが、可愛いのか……。
桃花は急に顔がほころびを失い、ニヤけていくのを止められなかった。
「てことは部活を止めても3日後に死なないってこと?」
「当たり前じゃないの」
「じゃあ、止める」
桃花はベロベロになって、そう叫んだ。