その日、男装姿の若菜ちゃんを見た時、あまりにもスーツが似合ってるので、びっくりした。
意外と、いい男じゃないの。
まあ、女装とのギャップのせいでよく見えるだけかもしれないけど、思ったよりかなりいけてる。
「見つめないでよ、桃花。恥ずかしいじゃないの」
若菜は体をくねらせて、両手で口を隠した。
仕草を見ると、やっぱりオカマだ。
幻滅してしまう。
若菜は両手を内股に挟んで、照れてる。
「股間を触らない」
「いやあねー、股間なんて、下品よ」
どうも、変に男装がまとも過ぎて、ギャップを受け入れにくい。
やっぱり女装のままの方が良かったかな。
「いい、その格好でチケット切るんだからね」
「気付くかな、私って」
「気付くでしょ、その格好のほうが子供の頃から見慣れてるんだから」
「いやだあー、なんか緊張しちゃう」
「若菜ちゃん、メイク、やっぱ落としなよ」
「ええ、嫌だ、すっぴんになるの」
「だってやっぱ、変だって」
結局すっぴんにはなれないと最後まで若菜は拒絶した。
桃花もリハーサルに出かけ、時間を待った。