「違った、チェルシーホテルと間違った」
「チェルシーホテル?」
やばい、シド・ビシャスなんて森ガールは知らないよ……。
シドってグループが売れてるけど、シドも森ガールっぽくないよね。
この話はここでやめないと、メッキがはげる。
セックス・ピストルズは二度と聞かないと誓ったんだ。
「永ちゃんって、矢沢永吉だろ。よく知ってるね」
「お父さんが……」
思わず桃花はそう誤魔化した。
「そっか、なんだ、元彼が聞いてたのかと思ったよ」
その時、ルカの頭の中では、いろんな考えが巡り巡っていた。
少し大人しめのお淑やか系女子が、意外とヤンキーと付き合っていく現実をいっぱい見てきたからだ。
ヤンキー体質の男子は、その強引さで、クラスでも人気者の女子をあっという間にさらっていってしまう。
見ているだけでウジウジしている男子は、それを嫌々受け入れなければいけない。
現実に街を歩いてると、なんでと思うカップルに遭遇する。
ヤンキー系の男子が、ブリブリの女子なんかとラブラブだったりする姿を見るたびに、ああ、押しの弱い子だから、きっと押し切られたんだなと思ってしまう。
もしかしたら、桃花もヤンキーに押し切られ、元彼が矢沢好きだったのかもしれないと、考えていた。
それだけにお父さんが好きだったと聞いて少しだけホッとした。
しかし、お父さんがヤンキーなんだという新たなる心配がうまれてしまった。
とにかく、目の前の桃花はルカの理想に限りなく近い森ガールなのだ。
ヤンキーが森ガールを産んだっていいじゃないか。
トンビが鷹を産むって、こういうことを言うんだろう、きっと。