第3章 恋するダイエット
乃亜の今度の恋の相手は塚越隆平。
同じ2年生。
隼人と同じバスケット部員らしい。
とはいえ、隼人は幽霊部員みたいなもので、
ほとんど練習に参加してない。
でも隼人は中学時代はかなりの有名人で、
全国大会でも大活躍するほどのバスケット選手だった。
それがこの学校に来てから、すっかり練習をサボリ気味だ。
それも分らなくはない。
うちのバスケット部はとにかく弱いのだ。
学校の成績が良かった隼人は、
スポーツ推薦を選ばず、進学校を選んだのだ。
だからバスケ部の活動はなおざり。
すぐに練習にさえ出なくなった。
乃亜の恋しちゃった宣言から、わずか2週間。
乃亜は見違えるほどの美人に生まれ変わった。
恋の力は偉大である。
私も恋をしたら、こんな風に痩せられるのだろうか。
でも、まあ……。
乃亜が好きになる相手で
トキメいたことは一度だってない。
羨ましいとも思わない。
だって趣味悪いし……。
乃亜って、「どうしてあんなの」って感じの
男子ばかり好きになる。
もちろん、うちの学校にもかっこいい男子はいる。
でもココロは別に恋をしたいと思わない。
手を握ったり、ましてキスされたりしたりしたら、
口をゆすぎたくなるだろう。
エッチなんて、なおさら考えられない。
私はそれでいい。
まだ女子高生よ。
2年生。
焦って安売りするより、
心の底から好きな人と結ばれたい。
しいて言うなら、二次元恋愛中。
現実的な男子には興味がわかない。
だからジャニーズもジュノンボーイも好きじゃない。
テレビの中のタレントに夢中になる気持ちがわからない。
どうせ、会えるわけじゃなし、
まして想いが伝わるわけもない。
「ココロの好きな芸能人って誰?」
この手の質問が一番面倒くさい。
だって別にいないし。
アニメの名前だとオタクっぽく思われるし……。
だからちょっと前まで坂本龍馬って答えてた。
「なんだ、福山雅治、好きなんだ」
そうじゃないって、『龍馬伝』見てないし……。
だから最近は夏目漱石って答えてる。
「渋っ」
みんな、「何それっ?」って感じで呆れてる。
「だって私の名前、夏目ココロだし」
親が夏目漱石の作品から、名前をつけたんだって。
でも夏目漱石って
お札になったことくらいしか知らないけどね。
本当に好きなわけじゃない。
自分はきっとむちゃくちゃ面食いなんだ。
だからその辺のかっこいいじゃ我慢できないのだ。
そう自分を励ましている。
『それから』のココロはと言えば……。
弱小バスケット部の応援をしていた。
そうだ、乃亜と一緒に、日曜日の講堂。
バスケット部の対校試合の応援中。
乃亜は必死で隆平の名を呼んでいる。
「隆平!がんばれ!」
乃亜は、「塚越隆平」の文字の入った
手作りの垂れ幕を掲げ、メガホンで応援してる。
すごい、すごすぎる。
まだ話したこともないのに、名前を呼び捨て。
成功率100%。
その数字の秘密がここにある。
誰だって、気になるに決まってる。
見ず知らずの素敵女子が、
自分の名前を呼び捨てにしてるのだ。
誰だろうって思わない男子はいないでしょ。
よっぽどの草食系か、ボーイズラブの男子くらいだよ。
真面目で堅物でもこれだけ押しが強かったら、きっ
と落ちるって。
さすが、乃亜。
ココロは乃亜に拍手を送りたい。