二十年前に
芝居小屋八千代座に
板東玉三郎が来る
まだ、昔の芝居小屋が
八千代座に復興した頃だった

三十五年前に、上京したおり
ひとりで
身の丈にあわない
高額なチケット握りしめ
いざ、歌舞伎座へ

運良く、板東玉三郎さんの
『藤娘』が上演され歓喜
ざわつく客席が
しーんと静まり返り
観客全員が舞台に
釘つけになる体験をした

大好きな八千代座に
しかも、玉三郎さんが来る
歌舞伎座の観客全員が
静まり返った玉三郎さん

高速を飛ばし駆けつけた日を
思い出す

その折、地元の
老舗のうちわ屋さんと
コラボした『うちわ』
昔ながらの竹と和紙を使用
板東玉三郎の定紋が入る
ベージュの色に、ウグイス色の
定紋が渋く
私には高額だったが求めた

そのうちわ屋さんの
キャッチフレーズが
『100年もつ、うちわ』
本当かしらと楽しむ

毎夏にやさしい風を、楽しみ
冬は鴨居に飾り楽しみ
私専用のうちわで大切に
していた

ベッドに横たわる夫
寝返りもできない夫
『百年もつ、うちわ』は
夫専用になる

昨年の猛夏は大活躍
今年も破れたところを
セロテープで修理し
夫のベッド側に待機

いくと挨拶がわりに
『百年もつ、うちわ』で扇ぐ

昨日は一連の世話を終えると
夫が不自由な手をあげ
物を取って欲しい仕草をする
あてずぽうに『うちわ』を
持たせると
なんと、私を扇ぐ

弱い動きだが、あおいでる!

驚きと嬉しさで
ぐちゃぐちゃになる
思いやりのある夫が
復活している

そんなことがあった
雨の日